プロローグ
小さいころの俺は、言うなれば冒険者だったのだと思う。森で拾った真っ直ぐ伸びた木の棒は伝説の剣だったし、すべての攻撃を跳ね返す、風呂敷に似たデザインのマントを颯爽となびかせて、広大な、いや広大だと思い込んでいた大地を疾走していた。あの頃は全てが彩り輝いていて、全てが敵で、全てが味方だった。
思えばいつだっただろうか、伝説の剣が味気ないシャープペンシルへと代わり、風に揺れた伝説のマントを制服に装備換えしたのは。目に見える景色は灰色に変わり、駆り立てられていた冒険心が枯渇してしまったのは。
いや、枯渇してしまったのではないと思う。多分、空想で満たされていた俺の世界が、徐々に現実に侵食されてしまった結果なのだ。誰しもが通り、大人へと変わっていく過程なのだろうと、大人でもない自分が考える。
馬鹿みたいだと思った。
こうやって達観してみて、現実に満足していない、満たされない若者の像を演じてみても、あの輝いていた子供時代に戻れはしない。過去を美化して、現実の自分を蔑んでみても、そこにいるのは灰色になった世界でもがき苦しむ自分しかいないから。
十分だと思う。
この灰色の世界でも、何かを頑張って、何かに挫折して、誰かと別れて、誰かと出会い、誰かを愛する。きっと今は見えない、新しい光が見えてくるんじゃないかと思うんだ。
…………だから、俺はまた子供の時のように、剣を握り締め、マントをまとい、駆け回ろうと思う。この、彩り輝く俺の知らない世界から、あの灰色で満たされた穏やかな世界に、戻るために。
もう、小さい頃のように、颯爽とはいかないかもしれないけれど。