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シンデレラはガラスの靴を脱ぎ捨てる

作者: 猫小路葵

「この、エロ王子!」


 ワルツの最中、王子の足を掬って転ばせてやった。

 お城の大広間は騒然となったが、知ったことか。

 わたしがすごい形相で広間を突っ切っていくと、そこだけ潮が引いたように道ができる。

 楽団の音楽は止まり、優雅に舞い踊っていた紳士淑女たちが唖然としていた。


 その日、お城から国中の民におふれが出た。

 王子のお話相手を募集するという。

 ――性別、学歴不問

 ――未経験者大歓迎

 ――和気あいあいとした職場です!

 ただ、年齢だけは王子と同世代が望ましいとのこと。

 今宵お城の大広間で面接を兼ねた舞踏会を行う。

 希望者はふさわしい服装で来るように、とのお言葉だった。


 今の暮らしから抜け出したかったわたしは、その舞踏会に行きたかった。

 わたしが小さいときに死んだママのドレスで行こうと思ったのに、継母と義姉に破られた。

 悔しくて、めちゃくちゃになったママのドレスが悲しくて、わたしは裏庭で泣いていた。

 そんなわたしの前に現れたのは、ひとりの魔法使いだった。

 背がすらりと高くて、煙草をくわえた、態度も背丈と同じくらい大きな奴だった。

「そんなに行きたいのか」

「行きたいわ」

 ママのドレスを抱きしめるわたしに、魔法使いは恩着せがましく言った。

「本気なら、手伝ってやらないこともないがな」

 昔に絵本で読んだ魔法使いとイメージが違ったけれど、背に腹は代えられない。

 魔法使いはわたしに、馬車とドレスと、ガラスの靴を用意してくれた。

 魔法がかかったわたしは、美しい娘になった。


 大広間に入ると、王子は目ざとくわたしを見つけた。

 そしてつかつかと近づいて、ダンスを申し込んできた。

 手に手をとって踊っていると、王子はにやにやしながら耳もとで囁いてきた。

「きみは、『未経験者』かな?」

 王子はわたしに、いやらしく密着してきた。

 そして、王子の真ん中にある不快なものをわたしに押し当ててきた――


 大階段を駆け下りる途中で、ガラスの靴が片方脱げた。

 もう片方も脱ぎ捨て、裸足で走る。

 車寄せにはすでに馬車が停まっていた。

 愛犬の化けた御者が、ドレスの裾をからげて駆け下りてくるわたしを見て『お嬢様!』という顔をした。

 馬車の横っ腹に、魔法使いがもたれて煙草を吸っていた。

 魔法使いは煙草をついと上げてみせ、何もかも承知の顔で微笑んだ。


「おかえり、姫君」


 魔法がとけて、わたしはわたしに戻る。

 憎らしい魔法使いの懐に、裸足のわたしは、まるで体当たりするように飛び込んだ。




 終

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