8話 闇落ち
後日~
勢いよく扉を開き、部屋へ入る、オネット。
「父上!」
「何だ?騒々しいぞ!貴族なら、もっと余裕を持った行動を…」
「説教は、後にしてください!それよりも、こちらを…」
一枚の書簡を、机に叩きつける。
「何なんだ。これは?」
「陛下への抗議文です」
「はー。真面目ところは、おまえの取り柄だが、そんなこと許されるわけ無いだろ…」
書簡を手に取り、破り捨てる。
唇を嚙みしめ、一息ついてから、言葉を発する。
「最近、騎士の行動は、目に余るものがあります。ここは、陛下に灸を据えて頂くしか…」
「いい加減にしろ!我々貴族が、今どのような立場に置かれているか、判っているだろ!」
「この後、私には用がある。もう、下がれ」
机に置かれた本を搔き集め、支度をして、部屋を出て行こうとする。
「…父上は、僕の様に、暇を持て余している訳では無いですもんね」
「何?聞こえなかったが、何か言ったか」
「いいえ。何でもありません」
「そうか。今日は、夕暮れには帰れると思うから、妻に伝えておいてくれ」
父親は、両手いっぱいに本を持ち、部屋の出ると、扉を勢いよく閉めた。
「・・・くそ」
雨の中、淡々と仕事をこなし、束の間の休憩を取る、オネット。
「おい、聞いたか」
「何をだよ?」
「王女暗殺を謀った、アルバート家の話だよ」
「息子の不祥事で、一族皆殺しだってな」
「勿体ないよな。せっかく、騎士の時代が、巡って来たのに」
騎士の時代だと…ふざけるな!
剣を振ることしか能が無い奴らに、国を動かすことなんて、出来るわけがない。
人には、適材適所!それぞれの役割があるんだ。
この僕にも…僕にも…
僕には…能力を振るう機会すら、巡って来ない時代なのか・・・
「いや…違う…そうだよ!」
時代を、代えればいいんだ。
今、騎士に対する陛下の信頼は、揺れている。
そんな時に、また、事件が起きれば…
「ははは、あははは」
僕ほどの頭脳があれば、騎士共に罪を着せることなど、簡単だ。
雨雲の晴れた青空が、高らかに笑うオネットを照らした。
「あー、天が僕を祝福している。この期待に、応えなくては」
騎士の装備を身に着け、兵舎の近くに咲く、花を摘む、オネット。
「まさか、こんな場所に、毒草を植えてくれているとは…偽装工作をする手間が省ける」
「ねぇねぇ。あっちで、皆、訓練してるよ。行かないの?」
「僕は、人より体力が無いから、別の訓練なんだ」
子供!王族の人間か?
驚きはしたが、言い訳は考えてある。表情にも、出していない。
何も、問題は無いはず…
しばらくの間、無言で見つめ合う、二人・・・
「そ、そろそろ戻らないと。僕は、失礼するよ」
「ばいばい。また会おうね~」
手を振り、その場を去る、オネット。
「気づかれて…無いよな?とにかく、これで準備は整った」
この毒を王に飲ませれば、騎士の時代は、終わりだ。




