07話 我慢…我慢…我慢…
僕の名前は、オネット・オスラ。
王に仕える貴族だ。
父親は、王に信頼された忠臣として、名を馳せている。
正直、剣を振るうしか能の無い父親が、忠臣とされていることには、疑問に思うが…
親の七光りで、王宮の職を頂いた僕が、文句など言え無い。
「おい。あれ→」
「そうだ。あいつだよ…」
馬鹿にしたような、同僚達の笑い声を耳にする。
「ふん!人の陰口を言うなら、聞こえない所で話せよ」
あまり良い職場環境とは言えないが、出世するまでの”我慢”だ。
王宮での仕事は、実に簡単なものだ。
王族が使う日用品を、倉庫から運び出す。
使用して足りなくなった物を、一つずつチェックして補充する。
最後に、在庫リストと照らし合わせ、在庫が少なくなった物を、上に報告する。
「あの。ここ」
↓
「リストよりも、在庫が少なくなっていたんですが、間違いじゃないですか」
「は?間違い?お前が、報告し忘れていただけだろ」
「父親に追いつきたいなら、自分のミスは、認められるようにならないとな」
修正したリストを、突き返された、オネット。
「楽で、良いよな。雑用係は…」
「俺たちは、毎日、書類と睨めっこしてるのにな」
「ハハハハハ」
笑い声を背に、リストを握りしめ、部屋を後にした。
中庭で一人、曇り空を見上げる、オネット。
「くそっ!」
壁に、頭を打ち付ける。
あと5年早く生まれていれば、今と、状況は違っていたのに!
あの反乱以降、貴族は、金に係わる仕事を禁止された。
反乱を起こした貴族が、国の財産管理を、担当していたからだ。
「国の財源を使い、反乱を起こされておいて、よく滅びなかったなこの国は…」
「いっそのこと、滅んでしまえばよかったのに・・・」
廊下を駆け抜けた人影に驚き、我に返った、オネット。
「あ!まだ、兵舎の仕事が残っていたな…」
「痛てぇな!おい」
「うん?」
オネットの耳に、汚い怒鳴り声が聞こえてくる。
「おいおい、どうすんだよ。俺は、騎士だぞ。大事な体を怪我して剣が握れなくなったらどうするんだ!」
「う~ん。すみません」
あいつは、15年前の事件で出世した、成り上がりの騎士か…
「そのぐらいで、やめておけ」
「あぁあ?」
「侍女にぶつかり、騎士が怪我をしたとは、王様に報告出来ないだろ」
「・・・ちっ」
「はーまったく…」
こんな奴が王宮騎士とは、この国も、随分と落ちぶれたものだな。
「あ、ありがとうございます」
「いえ。お怪我はありませんか」
「はい。あ、ヘル様を見ませんでしたか」
「ヘル様?」
たしか…末の王子だったか。
噂では、5歳児とは思えないほど、頭が良いらしいが…
「いえ、見ていません」
この王宮で、大人の目を掻い潜って、逃げているとは、大したものだ。
いつか、会ってみたいものだな~
兵舎に、物資を届けた終えたオネットは、木陰で休憩していた。
「おい」
一人の兵士が、話し掛けて来る。
「はい。何ですか」
何か、運び忘れていたか?
「お前の上司が、ここに来いって」
伝言が書かれた紙を手渡すと、どこかへ消えてしまった。
「…先程のリストの件?だが、あれは、報告して終わりのはず」
紙に書かれた待ち合わせ場所の路地へと、急いで向かう、オネット。
「こんな所に…呼び出し?」
部下の前で抑えていたから、人気の無い所で、まだ叱責するつもりか…
「おい」
「はっうぅ!」
鳩尾を拳で殴られる。
追い打ちを掛けるように、膝を二回打ち付け、足の裏で体を蹴り飛ばされる。
壁にぶつかり、倒れたところを、踏みつけられた。
「雑魚が!二度と、しゃしゃり出てくんな」
「・・・」
風の吹いていない庭で、嘲笑うかの様に揺れる、木々。
それは、地面に伏せる、オネットの心を締め付けた。




