05話 悪い事は、隠し切れないものです
廊下の端から、リタ姉様が近づいてくる。
「あなた、風邪をひいているのでは無かったの?」
「う、うん。少し熱が…」
「噓ね」
「はい…至って健康です…」
リタ姉様は、スキルの影響で、人の噓がわかる。
「どうして、噓をついたの?」
「トール兄様の稽古が、怖くて…」
”噓”は、ついていない。
「トールは…融通が利きませんからね。私から、”厳しく”注意しておきます」
…ごめんなさい、トールお兄様。
「それで、健康なあなたは、どこへ行こうとしていたのです?」
「魔法の本を探しに、書庫へ…」
本来、王宮の書庫は、立ち入り禁止なのだが…リタ姉様に、嘘はつけない。
「・・・そう。ですが、書庫にある魔法の本は、あなたが読むには難しい物ばかりでしょう」
「北に建てられた教会には、ヘルにも読みやすい、魔法の本があると思い…」
「教会ですね!分かりました」
リタ姉様の言葉を食い気味に、ヘルは、教会へと向かった。
「教会…」
大きさこそ立派な建物であるが、柱は、苔に覆われ、入り口の扉は、角が欠け閉まらなくなっている。
「ここが?」
この世界に、神の信仰は無い。
しかし、神は存在している。実在する人物として…
「わぁ~」
中へ入ると、美しい景色が、ヘルを出迎えた。
正面にステンドグラスの壁画が広がり、左右の窓から射す木漏れ日が、ステンドグラスに当たり教会を色付けている。
「どんなに古び忘れ去られても、王宮の教会であることに、代わりないってことか」
ギシギシ、ギシギシギシ。
人気の無い教会の奥から、何かを動かす物音が聞こえて来る。
「誰だろう?今日、リタ姉様は、客人と会っていて居ないはず」
足音を消し、奥へ進むと、本棚の並ぶ薄暗い場所で足を止める。
「あれは…」
そこには、悪人顔で、本棚傾けるアルバートの姿があった。
「・・・誰だっけ?」
頭の片隅には記憶しているが、思い出せない。
金具に紐を掛け、本棚を固定するアルバート。
「まさか…あの紐を切って、人を下敷きにするつもりなのかな?」
本棚は、どう見ても不自然なぐらい傾いている。
あんな罠に、引っ掛かる人間はいない。
「あ!思い出した…」
「この本棚の前を通ったところで、紐を切れば…」
「だめだよ。そんなことしちゃ」




