18話 悪役は、狡猾であれ
私の名前は、オーウェン・ランス
辺境の領主であり、王宮の下臣も務めている。
5年前の反乱を沈め、出世した騎士の一人でもある。
長年、田舎の領主だった私が、王宮に、足を踏み入る機会が来るとは…
人生、何が起こるか分からないものだ。
今は、都の立派な屋敷で、書類に追われる毎日。
先日、優秀な義息子に、孫が生まれたことで、時の流れの早さを感じた。
仕事にも、家族にも、恵まれ、思い残す事は、もう…
「と、当主様!た、大変な事に…なりました」
使用人が、ノックもせず、部屋のドアを開ける。
「なんだ?」
「ご、ご義子息が、拘束されました」
椅子に深々と座っていたオーウェンは、飛び上がる。
「何!な、なぜだ…義息子は何も…」
「ど、どうやら、王宮の資金を、横領していたようで…」
「なんという事を…」
一度、椅子に座り、冷静になる。
「・・・もみ消せるか?」
「捕らえに来た兵士は、ランベイルの部下なので、難しいかと…」
「そうか…」
ランベイル・オスロ!
いつも、私の邪魔をする。
自分の義息子を、またオスロに、奪われるとは…情けない。
いや、今の私は、前とは違い、この地位がある。
まだ、救う方法はあるはずだ!
「絵画・・・!」
あの絵画には、魔力を注ぎ込む事で、魔獣が生み出される術式が、仕掛けられている。
王の執務室の改装に合わせ、私が搬入させていた、呪物だ。
王を殺せる程の物では無いが、上手く使えば…
「あれを使う」
「絵画をですか!しかし、あれは…」
「ああ。私の物では無い”が”問題無いだろう」
「…勝手に使って、よろしいのですか」
「今、使わねば、この家は終わりだ。ならば、死なばもろとも…」
失敗に終わっても、失うものは無い。
元々、このような事態に備えた、逃げ道だったのだろう。
ならば、私が使っても、問題無いはずだ。
私の策が成功すれば、”あのお方”も、勝手に使ったことを責めはしないだろう。
「直ぐに、絵画に魔力を注ぐ魔術師を、用意しろ」
「はい。かしこまりました」
「それから!」
「王室の前に、騎士派の兵士を待機させておけ」
「兵士ですか?」
「ランベイル・オスロに、全ての罪を被ってもらう…」
平和な王宮に、決行の時が近づく~
椅子に深々と座り、机に肘を置く、オーウェン。
「手配は?」
「万全です!」
「では、手筈通りに・・・」




