16話 影
私の名前は、シャーデン・クラスト
表向きは、末の王子の護衛。
実際は、王を影で支える、王宮の騎士だ。
5年前の反乱で、一族は、皆、殺された。
唯一の生き残った私は、二度とあの悲劇が繰り返されないよう、王宮で働く者を監視している。
しかし、私が守る王宮で、貴族が事件を起してしまった…
「クラストよ。我が子が、命を狙われたとは、どういう事だ!」
「申し訳ございません。別の件で…」
「言い訳など必要ない。今日で、貴様の任は、解かれた」
「お待ちください!私には、王を守る使命が…」
「余の代わりに、王族を守る。それが、貴様の使命となる」
「…承りました」
翌日~
扉の前に立つクラストは、王子護衛の任に就いていた。
王子の護衛?冗談じゃない。
騎士派の連中に、怪しい動きあったことは、調べがついていた。
後は、誰が何をしようとしていたかを、暴くだけだったのに!
私より先に、王子が気づいたと言うのか?
王子様とは、いったい何者…
「ねえねえ。お菓子が食べたいな~」
扉に立つクラストを、じっと見つめるヘルが呟く。
お菓子…何かの隠語か?
「申し訳ございませんが、ヘル様を離れる行動は、許されていません」
不機嫌そうな顔で、目線を逸らす、ヘル。
「・・・」
分からない。
本当に、お菓子が欲しかっただけ…いや、常識に捉われるな!
あれは、唯の子供じゃない。
侍女には頼らず、着替えから食事まで、一人で出来ている。
5歳児とは思えない生活力…天才だ!
「ねぇねぇ。オスラ叔父さんの所に、行きたいんだけど…」
ランベイル・オスラ…5年前、身内を切り殺し、王に忠誠を示した貴族か。
今では、王の忠臣として名高く、悪い噂も出てこない。
今から会っても、問題も無い人物だろう。
「分かりました。お供します」
ランベイル・オスラの元へ向かう二人。
「私は、扉の前で待機していますので、何かあれば、お声がけください」
今は、少しでもヘル様の情報が欲しい。
私が部屋に居ないほうが、素の会話を盗み聞ける。
「うん。ありがとう」
ヘルは、嬉しそうな顔で、部屋に入って行った。
壁に耳を当てる、クラスト。
「サイレントボイス」
壁越しの小さな声を、聞き取る魔法。
この魔法は、私の一族しか使えない。
魔法の存在自体、もう私と王以外、知る者はいないが…
「王宮騎士が王子を殺そうとしたり、既婚者なのに女性と密会してたり、苦労が尽きないよね~」
「そう。そう。妻子持ちは周知の事実、『それでも、貴方が好きなんです』と、言われてもな…って、お前!」
どうやら、ヘル様は、叔父と仲が良いようだ。
ランベイル・オスラが、不倫をしていたとは…
ヘル様は、どこからそんな情報を?
「僕に張り付いている騎士を、叔父さんの権限で、剝がしてくれない?」
私に、情報の出処を明かしたく無い。
だから、ランベイルの力で、私を引き離そうと…
「そう言えば、王がそんな命令を下していたな…待て!」
声が聞こえない?
会話が終わったか、魔法を無効化した…いや、こちらに来ている!
クラストは、扉から離れ、元の位置へ戻る。
「・・・聞いていたか」
扉を開けたランベイルから問い詰められる。
「い、いえ。私は、何も…」
「・・・そうか」
クラストを睨みながら扉を閉める、ランベイル。
「今は、あまり深追いしないほうが、良い…か」
ランベイルなら、私を切り殺し、護衛を交代させることも可能だ。
ヘル様の護衛をしながらでも、王は、お守り出来る。
上手くいけば、元に…
「ヘル様には、私の情報源になってもらう」




