15話 真実は、最後まで分からない
「ぼ、僕には、王と同じ茶葉など、畏れ多くて頂けません…」
顔を見合わせる、ヘルとランベイル。
「叔父さん。もう、僕から飲んでも、構わないよね?」
「ああ。客人が、出されたお茶を飲まないなら、仕方が無い」
「え!」
「ただ今、お注ぎします」
ヘルのカップに、お茶が注がれる。
どうする?
このまま飲ませたら、毒で間違いなく死ぬ。
そうなれば、お茶を用意した父が…
「父上!私がお注ぎしますよ」
「何を言い出す?客人に注がせるわけ無いだろ」
その通りだ!
今、僕は客人。
僕が、この毒を飲む以外、この場を切り抜ける術は無い。
「お、お待ちください。私が、先に頂きます」
「飲めないと言ったのは、お前だろ?無理をするな」
「いえ。頂きます」
カップを持ち上げるオネットの手は、恐怖で震えている。
「もういいよ。頂戴!」
テーブルに身を乗り出したヘルは、オネットが手に持つカップを握り、口を付けた。
「やめろ!」
ヘルの手を払い除け、カップを手放す。
パリンッ。
落ちたカップが割れ、お茶が飛び散る。
「あ、あ~驚いて、落としてしまいました」
「王と同じお茶が飲める、貴重な機会だったのに…」
白々しい演技で、難を逃れた喜びを隠す、オネット。
「もう十分でしょ。可哀想だよ…」
「そうですね…」
「え?」
テーブルに置いてある、茶葉の箱を手に取る。
「これに毒を入れたのは、お前だな!」
「・・・」
黙り込む、オネット。
「答えないか!この馬鹿息子!」
「僕が…入れました」
絶望の表情で、下を向く、オネット。
「毒を入れたと、認めるんだな?」
「はい。僕が、毒を入れました」
終わった。
このまま、捕まっても、処刑されるだけだな~
せめて、父上の名誉は…
唐突に席を立ったオネットは、ルイのカップを手に取り、注がれたお茶を飲み干した。
目を閉じ、毒が体に回る痛みを、待つ。
「死ねないよ」
新たなカップに、お茶を注ぐ、ヘル。
「…僕を、騙したんですか」
「茶葉も箱も、すり替えてはいない。おまえが、毒を入れた茶箱だ」
「だったら、どうして…」
「あの花には、毒が無いよ。”花”と”葉”にはね」
注いだお茶を飲み、味を楽しむ。
「じゃあ、僕は、何をして・・・」
「毒は、無かったから、毒殺未遂には、ならない。良かったね、叔父さん」
崩れ落ち、泣きながら、地面に頭を付けるランベイル。
「父上…ごめんなさい」
父の姿を見て泣き出したオネットは、父に向かい頭を下げた。
窓際で、外を見ながらお茶を飲む、ヘル。
「ヘル様!」
ヘルの護衛騎士が、ノックもせず、部屋に入って来る。
「・・・な~に~?」
「至急、王の元へ」
「王の身に何かあったのか⁉」
「ランベイル様も、お願いします」
訳も分からず、王の待つ部屋へ急ぐ、三人。
「お待ちください」
王宮を警備する兵士が、三人を止める。
「どけ!急いでいるんだ」
「お二人は、結構です。ですが…」
「ランベイル・オスラ!貴様を拘束する」
兵士が、ランベイルを抑えつける。
「何をする!やめろ」
「・・・ヘル様。行きましょう」
「でも…」
ヘルは、ランベイルを置いて、王の元へ急いだ。




