11話 熱中しても、周りは見て
見様見真似で、詠唱してみる。
「・あ・・い・・」
当然、途切れ途切れの詠唱では、光り輝く球体は出て来ない。
「もう一度、始めから」
「・・・・い・・」
先程とは違い、頭の中に言葉が湧いてくる。
光り輝く球体が、頭上に現れた。
しかし、詠唱の途中で、光が散乱してしまう。
「あとは、魔力のコントロールだけだな。何度も繰り返せば、感覚が掴めるはずだ」
感覚…その感覚を、教えてほしいのに…
そもそも、魔力を感じていない。
この状態で、魔力コントロールの訓練になるのかな?
疑問を懐きながらも、復唱する。
輝いては散り。輝いては散り。
気づけば、言葉に詰まること無く、詠唱が出来るようになっていた。
しかし、繰り返された詠唱により、球体にある変化が起きる。
その明らかな変化に、ヘルとオスラは、気づかない。
「サンクラウン」
頭上にある球体が光り輝き、周囲の雨が止んだ。
二人は、魔法の成功を喜び、共に空を見上げる。
「・・・」
「・・・」
詠唱を成功させた時、既に遅かった。
状況が理解出来ず、顔を見合わせ同時に息を吞む。
「おい。やってくれたな!王子」
「叔父さんの、教えが悪いからじゃない?」
しばらく、罵り合う二人だったが、会話が落ち着いたところで、冷静になる。
現状、置かれた立場を考えた二人は、頭を抱えた。
「今日は、室内で座学をしていた。それで、いいな」
「うん。部屋に戻ろう…」
雲一つ無い空に、太陽と並ぶ光りの球体が、歩き出した二人の背中を照らした。
訓練場を後にした二人。
道中、誰にも見つかることが無いよう、慎重に廊下を移動する。
無事、何事も無く、部屋の前まで辿り着いた。
「誰も居ないな…今だ!」
部屋の鍵を素早く開け、中へ入る。
「だ、誰にも、見つかってないよね?」
「大丈夫だ。誰一人、私達の姿を見てはいない」
冷や汗を拭う二人の目の前には、ヘルの護衛騎士が立っていた。
「・・・一人、居たね」
帯刀していた剣を抜き、騎士の首を刎ねようとする、オスラ。
「座学の方は、終わりましたか」
振り下ろされた剣が、首元で止まる。
「今日は、これで終わりだ。また明日、同じ時間に来るように…」
鋭く厚い剣を、鞘に収め、扉を開け、退出を促す。
「ヘル様。自室までお送り致します」
自室へと戻るため、騎士と共に、廊下を歩くヘル。
・・・いや、怖いよ!
剣を向けられても、一切動じない。
平然と、噓もつける。
普通の騎士じゃないよね…何者?
ヘルは、乾いた冷や汗に寒気を感じながら、部屋へ戻った。




