10話 忘れた方が良い事もある
「ヘル様。今日から、教師がオスラ様に替わりますね」
花瓶に水を注ぐ、ティーア。
「そうだね。行ってきま~す」
「え!まだ、朝食を食べて…もう、無い」
朝食を残さず食べきったヘルは、オスラの元へと向かった。
僕が、王に進言したら、すぐに替えてくれた。
信頼されているな~オスラ叔父さんって…
剣を振る以外、何を教えられるんだろう?
まぁ、護衛から離れる建前であって、本当の教師になるわけじゃない
この時間を利用して、魔法の訓練をするのが目的。
オスラ叔父さんに、教えてもらうことは・・・
腕いっぱいに抱えた本で見えなくなった鍵穴を、手探りで捜す、オスラ。
「ああ、早かったな。悪いが、扉を開けるの手伝ってくれないか」
「…子供だから、背が届かないな~」
「では、私が」
ヘルの護衛騎士が、本を受け取る。
「座学の勉強もいいけど、実技の勉強がしたいな~」
鍵を持つ手を止め、しばらく考えこむ。
「・・・なるほど。それが、私を教師にしたわけですか」
扉を開き、騎士を招き入れる。
「その机に、本を置いてくれ」
「はい。失礼いたします」
オスラは、騎士が本を置くところを確認して、扉を閉め鍵を掛けた。
「・・・何してるの?」
「騎士の監視を退けるため、監禁した」
違う…違う…そうじゃなくて…
騎士を扉の前に立たせている間、自分達が、部屋から抜け出すつもりだったんだけど?
「明日からは、どうするつもりなの?」
「え…き、今日だけでは無いのか!」
膝立ちで、放心状態となる、ヘル。
間違えた。部屋に入ってから、伝えていれば…
王に報告されたら、僕が、監禁生活だ。
「申し訳ない。私が責任を持って、騎士の口を…」
「死にたいの?叔父さん…」
時間を巻き戻すことは出来ない。今は、今日のことだけ考えよう。
過去のことは忘れることにした二人は、訓練場へ来ていた。
「何を教えれば良いのだ?」
「取り敢えず、初級魔法と魔法コントロールの方法を、教えてほしいかな」
「初級魔法は、室内の訓練場では危ないので使えませんな」
小窓から、雨が降る外を見る。
「コントロールの訓練を兼ねて、天気魔法を使うのはいかがでしょう」
「天気魔法?」
天候を自由に操れる魔法もあるのか~
雨を降らせ、土砂崩れを起こしたり、霧を作り出して、前を見えなくしたり。
色々な使い道が有りそうな魔法だ!
「天気魔法、使ってみたい!」
「では、こちらへ」
室内訓練場の入り口に移動する。
「まずは、私がやって見せますので…」
オスラは、奇妙な数字を唱え始める。
すると、オスラの頭上に、光の球体が現れた。
「サンクラウン」
その言葉と共に、球体が輝き始め、オスラの周囲だけ雨が止んだ。
「え、それだけ?」
期待外れ。雨に降られなくなるだけか~
あまり、使う機会は無いかもしれないけど…
一応、やって措こう。
「頭の中で唱えられるようになれば、無詠唱で使うことも出来ますよ」
「初めての場合は、これを、お読みください」
数式の書いた紙を渡された。
「また、数式か~」
数字以外、詠唱なんて出来ないよ!
魔法を小さい頃から使っている、この世界では、常識なんだろうけど…
どうしよう…王子なのに、こんな簡単なことも出来ないなんて言えない。
「何か解らない所でも?」
「い、いや。大丈夫」
「では、始めます。私に続けて、詠唱を」




