番外編 異能の姫巫女1
この子は異常だ。
2歳で一族の姫巫女として、生き神とされた。
その両親は、神を独占しようと隠したという罪で処刑された。
にも係わらず、無反応。
2歳なのだから、分からない、と言うのならわかる。
しかし、ただ、無反応だった。
言葉を理解し、知識を有し、一族に貢献した。
そんな姫巫女は、一族に崇められ続け、もう3年も経ってしまっている。
「・・・今回の行方不明者は2人?」
「はい・・・情けない限りでございます」
「・・・逃げたにせよ、何かあったにせよ、ここにはもういない。ほおって置け」
「はい」
「それよりも、今年の儀式のことだが・・・」
「・・・・・」
大の男達に囲まれた5歳の少女。
その有様には、すでに貫禄さえついている。
的確な指摘、無駄の無い仕事、溢れ出るカリスマ性。
何度でも言おう。
たった5歳の少女だ。
・・・そして、俺の幼馴染の妹。
カイルのシルヴィア。
俺はカイルと一緒にいる時のシルヴィアを知っている。
年相応の、幼く、甘えん坊なシルヴィアを。
だからこそ、痛ましい。
度々、こうして大人たちに呼び出され、教えを請われる。
何をすればよいのか。
どうすればよいのか。
5歳の少女に縋りつく。
まるで己の感情を殺すための仮面のような無表情な顔が痛ましかった。
カイルといる時の、幼い笑みはどこにも無い。
カイルから、「シルヴィを頼む」と言われているのに、何もできない。
ただ、黙って見ているしかできないのだ。
「でしたら、今年の殺陣はカイルとサリアでどうでしょう?」
「おお、それがいい。カイルは最近力を上げてきているし、サリアなら上手く合せられるだろう」
そうだ、そうだと大人たちが騒ぎ出す。
我ら一族は月の女神を信仰する、夜の一族だ。
神に縋り、神を崇め、神に供物を贈る。
殺陣も供物の1つだ。
映画や演劇での、斬り合いなどの乱闘の場面のこと。
試合と見せかけた、最初から決まった立ち合い。
毎月シルヴィアが舞う舞踊と同じで、殺陣も舞踊と同じだ。
女神に捧げる、供物・・・見世物。
儀式の一環でする神聖な物のため、使うのはもちろん神剣だ。
振り付けをし、何度も何度も練習し、体に叩き込んでやっとできる、とても危険な舞踊。
一族の家々にはそれぞれの決まった振り付けがあり、それを組み合わせ、一族の繋がりを深める意味も込められている。
カイルと俺ならつり合いも取れるだろうが、昔から、男女で行うのが仕来りなので、サリアと言う、女にしては背の高いものが選ばれようとしている。
どのみち、カイルとサリアでは実力に差がありすぎて、期待は出来なさそうだ。
「・・・サリアは駄目だ。力に差がありすぎるだろう」
難色を示したのはやはりシルヴィア。
当たり前だろう。一歩でも間違えれば死にかねないほどのものだ。
「・・しかし、カイルにつり合う女など、一族には残っておりません」
「かといって、カイルは外せませんな。一族と姫巫女の繋がりえを深めるためにも、やはりカイルが・・・」
「黙れ」
シルヴィアの怒気を孕んだ声が響く。
男達はびくり、と震え、一斉に黙り込んだ。
シルヴィアの言葉をびくびくとしながら待っている。
「私がやる」
「!しかし、姫巫女は殺陣の後に舞っていただかなければなりません。そのように、立て続けに・・・」
「私には出来ない、とでも?」
「そのようなことは!!・・しかし、体格差もございますし、剣舞とは違うのですよ!?」
「分かっている。馬鹿にしているのか?」
「そんな・・・滅相もありません!!しかし・・・姫巫女が怪我だもなさったら・・・」
「・・・カイルは言わば私の師だ。侮辱は許さない」
シルヴィアの声のトーンが更に下がる。
「・・・姫巫女、カイルを特別に思っている、というわけではありませんな?」
「ふん・・・。検索するな、不快だ。カイルとて一族の一人に過ぎん。しかし、私はカイルに教えを請う身でもある。・・・敬意を払ってはおかしいか」
「・・・いえ。ならばよいのです」
「不快だ。今日はこれで会議を終わる。殺陣はカイルと私で決定だ。反論はきかん」
言って、さっと立ち上がり天幕を出て行くシルヴィアの後に続く。
後ろでは大人たちが頭をさげ、叩頭していた。
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俺はシルヴィアの隣に並び、シルヴィアの様子を伺う。
その顔は泣きそうに歪んでいた。
「・・・すまない」
「・・・どうしてドミーが謝るの?」
無理に笑って答えるシルヴィアに胸が締め付けられる。
会議には25歳以下の若造は参加できない決まりだが、ドミーは族長の息子と言う立場から、見学することが許されていた。ただし発言権はない。
だからこそ、いつもカイルに言われるのだ。
「シルヴィを頼む」と・・・。
カイルの知ることの無いシルヴィアの顔。
大人たちを従わせ、上に立つものの威厳を兼ね備えた’姫巫女’の姿。
無表情で、声も冷え切って、全てを拒絶するシルヴィア。
話し方も、声の質もガラリ、と変わる。
「俺・・・」
「ドミー」
「ん?どうした」
「ありがとう」
「・・・・」
この子はどこまで分かっているのだろう。
何も出来なくて、ごめん。そう言うつもりだった。それなのに、シルヴィアは俺に礼を言う。
「心配してくれて、・・・兄上の味方でいてくれて、ありがとう」
「兄上」と言うとき、顔が歪んだのを見逃さなかった。
先ほど、「カイル」と呼び捨てにしたのは、他でもない。
愛しいカイルのため。
シルヴィアを・・・姫巫女を、神を、独占すること。
それは、すなわち、罪に値する。
もし、シルヴィアとカイルのラブラブっぷりが一族にバレでもしたら・・・
間違いなくカイルは処刑されるだろう。
両親のように。
シルヴィアは守っているのだ。カイルを。
そしてカイルもまた、シルヴィアを守っている。
知っている。
シルヴィアのために強くなろうと、剣を取ったことを。
知っている。
シルヴィアのために笑顔を絶やさないことを。
知っている。
シルヴィアを、心から、愛しく思っていることを・・・・。
知っている。
カイルのために感情を殺して’姫巫女’を演じていることを。
知っている。
カイルのために最高の笑顔を返していることを。
知っている。
カイルを、心から、慕い、思っていることを・・・・。
知っていて、何もできない。
俺もまた、夜の一族なのだ。
血に抗うことは難しい。
・・・保身に走ってしまう。
俺は、醜い。
「ドミー、いつもありがとう」
「・・・?」
くすっとシルヴィアが笑ってくれる。
カイル以外に向けられることの無いその笑顔が目の前にあることに呆然とした。
「・・・兄上と私が木の上にいるとき、誰も来ないように見張ってくれてるでしょう?」
「・・・お前の歌が聞きたいだけだ」
「ふふ、嘘つき」
「・・・」
「あー!!楽しみ!!兄上と殺陣だ!皆が腰を抜かしちゃうようなのするからね、期待してて!!」
「・・・ああ」
シルヴィアの輝く笑顔に、泣きそうになりながら笑顔を返す。
カイルの元へ帰ったシルヴィアが’本当のシルヴィア’に戻るのを確認して、俺は引き返す。
今日も月が俺を見下ろす。
月の女神様。
どうか、あの2人に祝福を。
ドミー視点です。
なんか読みにくい・・・
ごめんなさい・・・。