番外編 俺のお姫様
「カイル!!!」
「!!」
バァンッー!!
「ドミー!!!」
「いいから、行け!!」
「でも・・・」
「お前いなくなったら、シルヴィアどうすんだよ!!」
「!」
集落が燃えている。
辺りには人々の叫び声と銃声が鳴り響いている。
人間狩りだ。
「誰がシルヴィア守んだよ!!行けぇーーー!!!!」
「すまん!!」
俺はそう言って、地面を蹴った。
皆助けを求めて悲鳴を上げている。
ハンター達は、逃げ惑う皆を追い詰めて笑っている。
俺は急いだ。
シルヴィアのもとに。
あんな別れ方をしたのだから、今頃きっと不安に思っているに違いない。
早く、シルヴィアを抱きしめて、安心させてやりたい。
シルヴィア。俺の小さな可愛いお姫様。
もう直ぐ迎えに行く。
もう少しだけ、待っていてくれ。
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産まれてきた俺の妹はまさに、天使と呼ぶに相応しい女の子だった。
俺は産まれてきた歳の離れた妹にメロメロだった。
でも、両親は違った。
妹を見た瞬間、絶望した。
そして、言うのだ。
この子が可哀想でしょうがないと。
可哀想と言って泣く両親を無視して俺は妹の名前を考えた。
「よし!お前はシルヴィアだ!!お兄ちゃんだぞ~」
抱いてそう言うと、シルヴィアはにっこりと笑って俺に手を伸ばし、きゃっきゃとしている。
なんて、可愛いのか。
「シルヴィ・・・俺の小さなお姫様」
両親はシルヴィアを一族から隠していた。
でも、その理由が俺にもだんだん分かってきた。
シルヴィアが俺の子守唄をまねして歌おうと、うーうー言っっていたときだ。
余りの可愛さに、俺は悶絶していたのだが、次の瞬間、固まった。
シルヴィアの周りに、花が咲いていた。
シルヴィアが歌えば歌うほど、それは増えていく。
家の中だというのに、花々が、シルヴィアを守るように、シルヴィアに触りたくて仕方ないとでもいうように、シルヴィアの周りに、咲いた。
俺はその余りの美しさに陶然とし、その余りの危うさに愕然とした。
夜の一族は、その美しい外見からトレージャーハンターに追われていた。
その隠された生態から、研究者に追われていた。
世界中の好事家、人体収集者や研究者に狙われていたのだ。
シルヴィアが2歳になったころ、一族にばれた。
一族の皆は逃げ暮らす生活に疲れきっていた。
そんな皆がシルヴィアの美しさ、神々しさに魅入られてしまったのも仕方の無いことだと思う。
しかし、シルヴィアは’姫巫女’と祭られ、シルヴィアを隠していた両親は殺されてしまった。
祈りの時間、シルヴィアは一族の民族衣装をきて高台の上に座る。
その顔は無表情で、冷めた目をしていた。
その顔が美しい顔をさらに美しく、神々しくしていることに気づいているのだろうか?
その顔をやめさせたくて、俺はいつも1人だけ顔をあげて、にっこりと笑いかけた。
俺が笑うと、シルヴィアが笑ってくれるから。
俺は笑顔を絶やさない。
俺の可愛いシルヴィア。
きっと、きっと俺が守ってあげる。
お前の体も、心も全部守ってあげる。
だから、そんな顔をするな。
シルヴィの笑顔が見たいよ。
2人で、毎日笑顔で過ごそうな。
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「かっ・・・はっ!!」
「よっし!!仕留めたぞ!!!」
頭に強い衝撃を受け、意識が朦朧とする。
人が集まってくる気配がする。
俺は、死ぬのだろうか?
シルヴィアを置いて?
嫌だ。
死にたくない。死にたくないよ。
怖い、怖い。
死ぬのは怖い。
だって、シルヴィアに会えなくなる。
あの笑顔に合えなくなる。そんなの嫌だ。
あの子はまだ5歳なのに。
俺が死んだらどうなる?
俺にしか笑顔を見せないのに。
俺がいなくなったら、どうなるんだ?
シルヴィアは俺がいなくても、笑ってくれるだろうか?
きっと、今も、帰りの遅い俺を心配して待っているはずだ。
早く帰らないと、迎えにいかないと、シルヴィアが泣いてしまう。
そんなの嫌だ。
俺はシルヴィアにもらった髪留めを握り締めた。
意識が今にも遠のきそうだ。
「・・・・・死に、たく、な、い」
死にたくない。
「・・・い・・や、だ」
怖い。
シルヴィア、お前を1人にしてしまうことが。
お前を孤独にしてしまうこたが。
お前を置いていってしまうことが。
お前と離れてしまうのが、こんなにも、怖い・・・。
こぽり、と音がした、自分が血を吐いていることを知る。
浮かんでくるのは、森で別れたときのシルヴィアの顔。
不安で歪んだ、怯えた顔。
きっと今もそんな顔をしているだろう。
「っつ・・・シル、ヴィ・・・わ、らって・・・」
あんな顔をさせたまま、死にたくない。
「わ、ら、って・・・くれ・・・」
お前には笑顔が似合う。
俺の目から涙が溢れた。
「あ、い、してる」
愛してる。
「・・・あ、い、して、いる、よ・・・」
愛している。
迎えに行かなくては。
シルヴィが寂しがる。
「ま、ってて・・・いま、い、く・・・か、ら・・・」
体に力が入らない。
涙が止まらない。
シルヴィアを置いていってしまう恐怖に体が震える。
最後に頭に浮かんだのは俺の1番好きなシルヴィの笑顔。
それを最後に俺の意識は浮遊した。
カイル視点。
書いてて自分で涙でた・・・。WW