表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迎えに来て  作者: 小宵
6/11

破滅への道3



 あれからカスラーは私を外へ連れて行かなくなった。


 食事も家で取るようになったし、買い物も、商人を家に呼ぶようになった。

 カジノにも1人で行き、直ぐに帰ってくるようになった。


 カスラーは怯えている。


 私が誰かに奪われてしまうのではないかと。

 私がどこかへ行ってしまうのではないかと。

 私が、カスラーの元から消えてしまうのではないかと・・・・。


 カスラーはおかしくなってしまった。




 「シルク、シルク・・・どこへも行かないでおくれ」

 「・・・・」

 「ああ、私の1番の宝物・・・誰にも渡さない。やっと、やっと手に入れたんだ」

 「・・・・」

 「私のものだ、私の、私のものだ・・・」

 「・・・・」


 仕事から帰ると、直ぐに私の部屋に駆け込み、私の在宅を確かめる。

 居る事を確かめると、そのまま私を抱きしめ、うわ言のように、「私のものだ」と唱え続けるのだ。

 

 私は悲しかった。

 カスラーをこんな風にしてしまったことが。

 

 以前のカスラーも好きではなかったが、カスラーは迎えに来てくれたのだ。

 望んだ相手では無かったけれど、ちゃんと、迎えに来てくれた。

 嬉しかった。

 嬉しかったのだ。


 カスラーは、置いていかなかった。

 カスラーは来てくれた。

 兄上は?

 来てくれなかった。

 でもカスラーは来てくれた。

 時間は掛かったが、きてくれた。

 

 そう、時間は掛かったが・・・・・。


 時間が掛かっても、きっと兄上だって私を迎えに来てくれる。

 きっと、きっと・・・・きっと〇〇〇○〇を迎えに来てくれる・・・・。

 信じてる、信じてる。

 大好きな、私の、兄上・・・・。







 後で思えばこのとき、私も壊れていたのだ。いや、もっとずっと前。兄を失った、13年前のあの日から・・・・。



 自分の、本当の名前が思い出せなくなっていた。






+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




 この日はカスラーが笑っていた。

 誘拐されてから、初めてのことだった。


 カスラーが以前のように「おはよう、私の宝物。よく眠れたかい?」と言って、抱きしめて頬にキスを落とす。

 久々で、不思議に思い、首を傾げるが、カスラーは上機嫌で、私を着替えさせ、食事に行って、買い物に行って、カジノへ行った。

 カジノへ行けば、見たことのある人たちが群がってきた。


 「心配したんだよ」「また会えて嬉しいわ」「いつ見ても美しい」・・・・


 口々にそんなことを言ってくる。

 私はこの間、ずっとカスラーに肩を抱かれていたが、カスラーの顔にいつもの怯えはなく、どこか晴れ晴れとしていた。


 それから家に帰ってからもずっと上機嫌で、心の整理ができたのだろうか?とぼんやり考えた。


 「ああ、シルク。今日は最高の日だよ!」

 「・・・?」

 「もうお前をどこにもやらないよ!!」

 「・・・・」

 「いい方法を思いついたんだ!どうして今まで気づかなかったんだろう!こんなに簡単なことだったのに!!」

 

 興奮した様子のカスラーに首を傾げてしまう。


 カスラーはくるりと周り、私を抱き上げてきた。そのままカスラーを見下ろすと、やはり、上機嫌なまま。


 「君も、皆と同じようにあの部屋に保管すればよかったんだ!」

 「?」

 「はは、心配しなくていいんだよ。シルクに皆を紹介してあげよう」

 「・・・?」


 (私以外にカスラーに買われた人が?)



 私を抱き上げたまま、カスラーは廊下をずんずんと進んでいく。

 そして1つの扉の前で長い暗証番号を打ち込み、扉が開くが、その先にあるのもまた扉。

 今度はカードキーで開くが、またしても扉。

 今度は手の指紋、目の瞳孔など扉が続く度、様々な鍵がでてきた。


 そして、最後の1つのところで、カスラーは私を下ろし、言った。


 「それじゃあ、脱いで?」

 「?」

 「この部屋は完全無菌室になっているんだ。だから、消毒しやすいように、すべて服を脱いでくれ」

 「・・・・」


 そう言いながら、自身もどんどん服を脱ぎ捨て、全裸になるカスラー。

 一瞬誘拐のときのことが頭によぎるが、今まで私の着替えをしていたのもカスラーだし、カスラーが私に対してそういった感情が一切無いことがなんとなく分かっていたので素直に私もすべてを脱いだ。


 素直に従った私に満足して、カスラーが壁についたボタンを押せば、天井から霧が出てきて、アルコールのような匂いが充満した。


 「よし、これで消毒完了だ。きっと皆を見たらびっくりするよ。皆とても美しくて、珍しいからね」


 言いながら、最後の鍵、暗証番号を打ち込み、赤外線で全身を認証させている。

 

 「まぁ、シルクほど美しいものなんていない。君が一番の私の宝物だよ。・・・・さぁ、ごらん」


 扉が開いていくにつれ、中が見えてくる。

 そこは美術館のような場所だった。

 いくつもの’何か’が大切に保管されていた。


 私は辺りを見渡し、’それ’を見つけた瞬間、息が止まるかと思った。


 「見てくれ!この私のコレクションを!!」


 カスラーは興奮して、保管されているものを手にとってうっとりと見入っている。


 「これはあのエカテリーナ王妃の毛髪なんだ。こっちはイヅラ族の頭蓋骨。こっちは・・・・」


 そう言いながら、カスラーに腕を引かれ、どんどん私は’それ’に近づいていく。


 「そして、君はここだ!!」


 カスラーが指を差したのは’それ’の隣。ちゃんと私が入るスペースが空いていた。

 それの周りにあるのは、ホルマリン漬けになって、保管されている、赤い目。

 それだけでなく、首ごと飾られているものもあった。


 私は、その首達に見覚えがあった。


 しかし、私の目には’それ’以外何も見てはいなかった。

 

 私の視線に気づいたカスラーが嬉しそうに話し始める。

 

 「とても保存状態がいいだろう?高かったけれどどうしても欲しくってね。内臓は他の奴に取られてしまったけど・・・まぁある意味そのおかげでとても良い剥製になったと思わないか?」

 「は、くせい・・・?」

 「!!!シルク!!君、話せたのかい!?すごいじゃないか!!ああ、やっぱり君は最高だ!!私の宝物だよ!!」



 興奮するカスラーの声は、私にはもう、届いていなかった。

 私はふらふらと’それ’に近づき恐る恐る、手を伸ばした。


 触れた瞬間、その冷たさに愕然とした。



 「・・・・・・・・あ、に・・・うえ」




 そう、’それ’は確かに兄だった。


 

 展示されたそこには’夜の一族’と書かれていた。



 何かが、音を立てて私の中で、壊れていく音が聞こえた。



 もう、何も考えられない。





 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 『駄目だ!!!!!』





 倒れる前に、何か声が聞こえた気がしたが、そんなことはもう、どうでも良かった。









 光があるわけでもないのに、私は闇に、包まれるのを感じた。












 


 

 


 

 

 

 

 

 



 

  

いーたーいーよーーーー!!


 いや、バッドエンドにするつもりはないんですよ?

 ・・・一応。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ