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迎えに来て  作者: 小宵
4/11

破滅への道1


 ちくたくちくたくちくたくちくたく・・・・・・


 ピッピッピッピッピッピッピッ・・・・・・・・


 シューシューシューシューシュー・・・・・・・・・・・・・


 規則的な時計の音と機械の音がする。

 目の前で照らされたライトが明るすぎて、何もみえない。


 

 痛い。



 イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイいたいイタイイタイイタイ痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイーーーーーーー!!!!!!!





 色素の薄い目は強烈な光を受けきれずに私の視界を奪っていた。

 痛い、と思うが何もできない。

 私は今、服を全部脱がされ、仰向けに縛りつけられているからだ。

 気絶していたところを無理やり覚醒させられ、感覚が戻る。

 何が起こっているのか理解する前に思考が一色に染まる。



 全身がばらばらに切り刻まれるようだった。

 肉をむしられ、骨を削られ、気づけば頭蓋骨まで開かれていた。

 いくつもの管が血管に、脳髄に直接差し込まれている。


 「泣きもしないな。何も感じていないのか?」

 「まさか。十分に痛覚を刺激しています。ちゃんと反応もありますよ」

 「よし、麻酔の量を減らしてみよう」

 

 もう、やめて。殺して。

 そう、叫びたいのに、声が出ない。


 「これ以上は無理ですよ」

 「ちょうどいいじゃないか。ここまでばらしたものをどう治すか、腕の見せ所だろう」

 「そんなこといって、精神のほうはどうするんです。これでは確実に狂いますよ」

 「かまうものか」

 「でも、これ、高かったんでしょう?予算の軽く10倍はしたみたいじゃないですか」

 「幻の夜の一族だからな。ただのアルビノの毛色が違うだけで、金の無駄かと思ったが・・・この数値を見てみろ。素材としてはおもしろいぞ」

 「そりゃ、調べ甲斐はあるかもしれませんが……少しは考えてくださいよ」

 「常に考えているさ。医学の発展をな」

 

 痛すぎて何も考えられなかった。

 絶叫しそうになるが、視界を奪われ、相手の人数も、次に何をされるかも、何も分からないこの状態で、喉がからからに渇き、引きつる。

 恐怖から声が出ないのだ。

 

 激痛、激痛、激痛。


 さらに加えられる痛み。

 誰かの笑い声。

 

 傷つけられては直される。

 

 (殺して・・・・ころして)



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++






 兄は戻ってこなかった。

 ならば迎えにいくだけだ。そう思い、集落に向かったシルヴィアは信じられないものを目にした。

 

 燃えていた。集落が。


 「兄上ーーー!!!!」

 

 叫び、駆け出すと、足元に合ったものに躓き、思いっきり転んでしまった。

 何かとそれを見る。


 「ド、ミー・・・?」


 兄の幼馴染が血まみれになって倒れていた。

 恐る恐るうつ伏せになている体を反転させると、そこにあった顔は間違いなくドミーなのに、ドミーではなかった。

 体中に開いた穴。

 そして、眼球の無い顔・・・。

 目が、抉り取られていた。


 呆然とそれを見つめるが、すぐにはっとして駆け出す。

 走るうちに一族の者たちの屍が目に入る。

 

 ドミーと同じように眼球を抉り取られたもの。

 首から上がないもの。

 皆、銃撃を受けたように体に無数の穴が開いている。


 「兄上、あにうえーー!!どこ!?どこぉ!!!」

 

 死体を1体1体確認するが、兄はどこを捜してもいなかった。

 一族でないものの死体も何体かあったが、兄を探すシルヴィアの目には映らない。


 「あ、にうえぇ・・・どこ、どこぉ・・・へん、じ、してよぉ・・・」


 涙がどっと溢れた。

 兄を失ったかもしれないという恐怖に足がすくんだ。


 「あ、に、うえぇ・・・ひっく、ど、どこぉ・・・ど、ぅぅ、こ・・・・」


 足が動かず、這いずりながら兄を探す。

 顔は涙と泥でグジャグジャだ。

 

 「み、えない。なんで?みえないよ・・・こわい、こわい・・・兄上・・こわいよぉ・・・助けて・・シルヴィはここだよ」


 気づけば、朝になっていた。

 溢れる光はシルヴィアの心に反して温かく、辺りを照らし、シルヴィアの視力を奪った。

 今まで兄や一族に守られて生きてきたシルヴィアは初めての陽の光に混乱するばかりで、その場にうずくまってひたすら泣いた。

 そんな時、誰かがシルヴィアの小さな体を抱き上げた。


 「!兄上?!」

 

 兄だと思い、見えない目を見開き、手探りで顔を確認しようとしたが、


 「おい!見てみろよ!とんでもないもんが残ってたぜ!!」

 「すげー!!なんだよこの髪の色!瞳も・・・こんな人間いるんだなぁ」

 「これ、絶対高く売れるって!!ついてるなぁ。夜の一族はただでさえ需要が高いのに、集落は発見できるわ、こんなお宝見つけるわ」

 「今までちまちまと狩ってたからな。これで遊んで暮らせるぞ」


 その言葉に、愕然とした。

 今までの行方不明者は・・・・。


 兄以外のものに抱き上げられている。気持ち悪い。

 シルヴィアは獣のような咆哮をあげ、むちゃくちゃに暴れた。

 しかし、5歳の小さな女の子の抵抗など、大人の男にとっては抵抗のうちにも入らない。


 「なんだぁ?うるさいな」

 「気絶でもさせとけば?」

 「そうだな」


 その言葉と共に、腹に鈍い痛みを与えられ、意識を手放した。










 目を覚ませばそこは檻の中だった。

 鳥かごのような檻に赤いベルベットの布が被されている。

 暗く、視界も良好だった。

 起き上がろうとすればがしゃん、と足元で音がして立ち上がれなかった。


 「鎖・・・?」


 手足、首に鎖がはめられ、着ていたものはすべて無くなってしまっていた。

 涙と泥でぐちゃぐちゃだったはずの顔も綺麗になっている。

 何がなんだか分からずに、シルヴィアは混乱するばかりだ。

 

 檻の向こうが騒がしくなり、声が木霊する。


 「さぁ!これが最後の目玉商品!!!夜の一族です!!!!」

 「!!!!!」


 ベルベットの布が一気に外され、一瞬見えたのは、仮面をつけた大勢の人間。

 スポットライトをあらゆる角度から浴びせられ、またしても何も見えなくなってしまった。

 

 集落であったことを思い出し、動悸が激しくなり全身が震えた。


 「見てください!この髪、この瞳、この肌!!どれをとっても極上です。そして鳥かごは正解でしたね。震える様がまさに我々の嗜虐心をそそります!幼い今なら、あなたの育て方次第で何色にも染まるでしょう!!それでは1億からッッ!!!!」

 「5億!」

 「6億!」

 「10億だ!」

 「おおっと!早くも10億になりました!!」

 「20億!」

 「25億!!」

 「50億!!!」

 「すばらしい接戦です!他に、いませんか!?」

 「100億だ!!!」

 「200億!!!」

 「ありえない額になりましたよぉ!!さぁ、皆さん他には?35番の方、さらに倍でました!!」

 ・・・・・・・・・・・。


 (何・・・?)


 自分の意思を蚊帳の外に何かが行われている。

 何も見えないところで、わけも分からず移動させられ、わけも分からず何かをされている。


 (怖い、見えない。兄上)


 何も見えないことがこんなにも怖いなんて知らなかった。

 光がこんなに怖いなんて知らなかった。

 いつか、陽の光を体に感じたいと兄と2人でいつも言っていた。憧れすら抱いていたのに。


 (怖い)


 

 そして、シルヴィアを落札したのは、医療の研究をするための研究所だった。





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 「実験体469。戻せ」

 

 終わりを告げるその言葉に安堵する。

 ああ、今日はこれでおしまい。

 後は部屋に戻されて寝るだけ。


 あれから5年の月日がたち、シルヴィアは10歳になっていた。

 シルヴィアは実験体469、通称シルクと呼ばれていた。


 ライトを照らされ、視界を奪われ、行われる’実験’

 シルヴィアにとって光を浴び、視界を奪われることは恐怖以外の何者でも無くなっていた。不幸な目にあうのは、決まって視力を奪われたときだ。


 


 ベッドに沈み、眠る。

 

 

 どれくらい寝ていたのだろう。


 目が覚めると、また白い闇がシルヴィアを襲う。

 反射的に、体がすくみ震え、立っていられなくなる。

 崩れ落ちそうになった瞬間、誰かに支えられた。


 「大丈夫かい?」


 びっくりした。この5年間、こんな労りの言葉をかけてくる者など1人もいなかった。


 「もう、大丈夫だよ」

 

 そう言ってその男にふんわりと抱きしめられ、抱き上げられた。


 「今日から、私が、君のパパだ。よろしく、シルク」


 (ああ・・・・)








 また売られたことが分かった。

 いらなくなったら捨てられる。

 なんと勝手なのか。

 しかし怒る気にもならない。

 何も感じない。

 だって感情なんてあってもしょうがないから。

 誰もシルヴィアの内心なんて気にしていないから。今も、昔も。

 

 兄、以外は。








 あの日、兄の死体は見ていない。

 そのことだけを心の支えにして生きている。

 

 「迎えに来る」


 そう、言ってくれた言葉をただひたすら信じて、待っている。


 兄は生きている。生き延びてくれている。


 そして、いつか、私を迎えに来てくれるはずだ。







 (あいたいよ、兄上)

 

 


 


 

 

 

痛いとこ、参考にした資料があります。

ぱくりだ!と思った方、いらっしゃるかもしれません。

ご了承くださいマセ・・・。

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