兄上と私 2
キンッ
キインッゴッ
剣の混じりあう音が辺りに響く。
闘っているのは兄上とドミーだ。
我々夜の一族は月に1度、こうして互いの強さを確認しあう。
といっても、毎回兄上とドミーが勝ち残り、勝敗も五分五分だ。
一族では強きものが誉とされ、族長の地位を継ぐ。
しかし、25歳を超えたものに限ることなので、世代交代まではまだ時がかかるだろう。
(あ、決まる)
ひと際高い音が辺りに鳴り響き剣が弧を描いて飛来する。
そして剣のなくなった相手にチェックメイトをかけたのは・・・・兄上、カイルだ。
勝者が決定し、歓声が響く。
兄上は汗を拭い、壇上をゆっくりと上がり膝をつき、頭を垂れた。
そう、私の目の前で。
私はいつものように勝者に祝福を与えるため、立ち上がった。
そして兄上の頭に口づけを小さく落とす。
瞬間、大地を揺るがすような歓声が沸き起こった。
その歓声を片手をあげることで静止させ、兄上が捧げている剣を手に取る。
兄上が脇に下がり座す。
そして剣を私が構えると同時に手足に結んだ鈴がリンっと音を立てた。
目の端でドミーが横笛を構えたのを確認し、足を踏み出した。
剣舞。
剣を片手に持つ5歳の少女が舞う。
その外見からは考えられない力強さと意志のの強さが見られる。
動くたびに月光が少女の後を追うように、光が溢れていた。
その姿に誰もが見入っていた。
この少女こそがまさに光であるかのように。
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「つかれたーーーー!!!!」
バタンとそのまま草むらへダイブするとカイルに叱られる。
「あ、こら!女の子がそんなはしたない!!」
「武術習ってる時点でそんなこと言ってる場合かなぁ?」
そう、シルヴィアは今カイルに武術を習っていた。
夜の一族は森を移住するので、弓、槍や剣を使えることはほぼ必須だ。男は。
シルヴィアは何でもできた。
裁縫、料理、楽器に舞踊。
5歳児とは思えぬ完璧さだ。話し方も、カイルといるときこそ幼い、年相応のものだが、他者に接するシルヴィアは老成されたものがあった。つまりは貫録があるのだ。
「俺は誓ったんだ!!シルヴィを一人前のレディにすることを!」
「えー?武術は?」
「うむ、そこなのだがね、シルヴィア君。かわいい子は襲われやすい。だから自分の身は自分で少しでも守れるようにだね・・・」
「はーい」
「・・・ともかく、覚えもいいし暇だろう?一族では強いものが誉とされるからね。覚えておいても無駄にはならないだろ?」
「レディは?」
「今の流行は歌って闘えるミラクル美少女なのだ!!」
「意味分かんないーーー!」
「なに!?それは修行が足りんからだ!よし、今からあの木を早く上ったほうが勝ちな。よーいドンっ」
「あー!!ずるーーーい!!!」
手足の長さが全然違うためいつも負けてしまうこの勝負をシルヴィアは嫌いだ。
(だって兄上が置いていくんだもん・・・)
「シルヴィーー!あとちょっとだ!がんばれ!」
「むーーーあーにーうーえー」
唸りながら手を伸ばすとすぐ引っ張ってくれた。
そしていつもの定位置、カイルの胡坐の上に収まった。
今日もシルヴィアは歌うのだ。
幸せなこの瞬間がいつまでも続くことを祈って。
カイルも同じ思いを胸にいつまでもシルヴィアを抱きしめていた。
「あ!兄上。忘れてた」
「何がだ?」
シルヴィアは何やらごそごそと自分のポケットを探り、見つけ出したそれをカイルにハイ、と渡した。
「お前、これ・・・」
「一生懸命作ったんだよ!!つけてあげるね」
そう言ってカイルに向き直ると手を首から後ろへ回して、髪を結い始めた。
カイルは妹のその行動に苦笑するしかない。
夜の一族に古くから伝わるお守りだ。
髪飾り。
月の女神を信仰する夜の一族は、己の銀髪が月光を受けて光るため髪を長く伸ばすことが仕来りなのだ。
そして異性に髪飾りを贈り、月光を妨げる行為は独占欲を示すもの。
月の女神にすら渡したくはない、という。
聡いシルヴィアが意味を知らないはずがないのだ。
困ったものだと思うが、それ以上に喜びが勝る。
「ありがとう、シルヴィ」
「ん。あのね、シルヴィの髪も一緒に編んであるの」
「ああ、だからこんなに綺麗なのか」
そう言って頭をなでてくれるカイルにシルヴィアはほほを染めた。
他の誰でもない。兄にそう言ってもらえたことが嬉しかった。
「あのね、兄上」
「んー?なんだー?」
「大好き」
シルヴィアが一番好きな笑顔が返ってきた。
「俺もだよ」
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兄上は私にとって、兄であり親であり師でもある。
すべて兄上を中心に回っていた私の世界。
兄上がいなくなったらどうしたらいいの?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わからないよ。
ラブラブ兄妹再び。
そろそろ話を戻そうかと・・