兄上と私 1
族長の息子・カイルの幼馴染 ドミニク 愛称ドミー 20歳
頭を下げている同属たちを私は冷めた目で見つめていた。
白い髪、赤い瞳、色素の薄い肌・・・
私たちは世間一般で言う’アルビノ’らしい。
確かに我々の色素の薄い目は、自分で光の調節ができず、日の光の下では視界が真っ白になる。
何も見えなくなるのだ。
そのため生活習慣は昼夜が逆転している。
夜の一族、闇の一族、そう呼ばれていた。
しかし厳密に言うと私たちはアルビノではない。
それよりももっと’色’がなかったのだが、生き延びていくうちに血が混ざり、’色’が濃くなってしまったのだ。
「姫巫女様」
「巫女」
「どうか、どうか我らをお守りください・・・」
私を巫女と呼ぶ人々を無表情で見渡す。
(ずいぶんと少なくなった)
我ら夜の一族を知るものはもうほとんどいないだろう。
それほど一族は少子化し、衰えてしまった。
最近では行方不明者まで出る始末。
そんな中で、先祖がえりのように’色’のない私に、一族のものたちが歓喜し、すがってくる気持ちも分からなくはない。
なぜか私には生まれたときから、ありとあらゆる知識が頭にあった。
そればかりでなく、瞬間記憶能力や人を魅了する不思議な声をもっていた。
幼いながら、私はそれを懸命に隠した。
しかし、隠していても関係なかった。
純血を思わせる、その角度によって色を代えるオパールのような絹糸の髪。
’色’のない瞳はどこまでも透き通り、透明で、髪の色を反射して玉虫色に輝いている。
顔はまるで人形のように整い、人間離れした神聖なものまで感じるのだ。
生まれてすぐに神とされた。
親はすでに無く、大人たちに縋るような眼差しで見られ続けた。
「姫巫女様」
「姫巫女」
「巫女様・・・」
いつものように拝み倒され、もう諦めに近いものを感じている。
無表情だった顔に険が混じる。
すると顔を伏せている人々の中で、1人顔をあげて私にウインクしてから口をパクパクさせている者がいた。
『も・ぅ・ちょっ・と。が・ん・ば・れ』
(兄上)
あんなに嫌な気持ちだったのに、兄の一言でそんなものはどこかへ行ってしまった。
これが終われば兄と山に遊びに行く約束をしているのだ。
それが楽しみで私は兄にとびっきりの笑顔を向けた。
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「たかーい!すごーーーい!!!」
「気に入ったか?」
「うん!兄上、お猿さんみたい!!」
「・・・・こんなにかっこよくて優しい兄に向かって、あろうことか猿だとう!?」
「兄上かっこいー!!!」
「え?スルーするのか?」
「兄上大好きーーー!!!」
「俺のほうがシルヴィを愛してるぞーーーー!!!」
「わーたーしー!!!」
「おーれーだー!!!」
2人でけらけら笑いながら兄のライルはシルヴィアを抱えたまま、木を登っていく。
カイルはより頂上に近い枝にシルヴィアを下ろし隣に座った。
今夜は満月だ。
月光を受けて淡い光を帯びて輝いているシルヴィアをカイルは愛おしさを隠しもせず、ただじっと見つめた。
シルヴィアも見つめ返す。
「兄上髪が光ってる。綺麗」
「お前のほうが綺麗だ」
「むー!!兄上だよ!!」
「いーや。俺のシルヴィが一番綺麗で可愛い!!」
「むーー!やーだー!兄上が一番なのー!!」
「なに?!」
「兄上かっこいーーー!!」
「ここで話を戻すのか!?」
「兄上大好きーーー!!」
「くそう!!可愛すぎる子にはこーしてやる!!」
「にゃ~おひげがぞりぞりするよ~」
「え?俺ひげはえてる?」
「はえてない。言ってみたかっただけ」
「・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・くっ、負けた」
「かったー!!」
2人でふざけ合い、談笑したあと、シルヴィアはカイルに、こてんと寄り添い、眼を閉じる。
優しい風が2人の頬をなで、木々たちが揺れて音を紡ぐ。
シルヴィアはカイルを見上げ、微笑むと息を吸い込み、歌いだす。
カイルはシルヴィアの歌に耳を奪われる。魂まで奪われそうで背筋が震える。
その声は人を魅了する。
美酒のように人を酔わせ、その肉体を揺さぶるのだ。
いつのまにか風もやみ、木々のさえずりさえ聞こえない。
誰も、何者も、ひそりとも音を立てない。
誰もがその歌声に心酔の眼差しを向け、夢を見ているような心地になる。
永遠に続いてほしい、そう思わせる至福の夢。
しかし、歌の終わりが夢の終わだ。
再びカイルを見上げて微笑むと、またこてん、ともたれて来た。
この時間が永遠に続けばいい。
2人はただ黙ってずっと寄り添っていた。
「おーい、カイルー!もうすぐ夜明けだぞー!!」
「ん?」
下を見ると、カイルの幼馴染、ドミニクが手を振っていた。
カイルはシルヴィアを抱き上げそのまま飛び降りた。
「!!!!」
「あ、悪い・・・びっくりしたな?」
突然の浮遊感にシルヴィアは内臓が飛び出すかと思った。
涙目にカイルを睨む。
「わ、わーー!ご、ごめんな?俺が悪かった!な、な?」
「むー」
「・・・お前ら相変わらずラヴラヴだな」
「あたりまえだ」
「・・それより、そろそろ戻らないとみんな心配するぞ」
「ん、ありがとな、ドミー」
「ああ。・・・あと、シルヴィア。いつもありがとな」
ぽんとシルヴィアの頭を一撫でしてドミニクは踵を返す。
その後ろをシルヴィアを抱えたカイルが追った。
「兄上ーおきてー」
「むにゃ、なんだ~?」
「眠れないー」
起き上がってカイルの顔をぺしぺしと叩いていたら、いきなり抱き込まれた。
「寝ろーーー!・・・・・ぐー」
「みゃ!く、苦しい!兄上苦しいよ~」
もがもがとカイルの胸元でもがいていたら、カイルが上半身を起こしシルヴィアの鼻を弾いた。
どうやら嘘寝だったようだ。
「んー、本でも読もうか?」
「子守唄がいい!!」
「・・・いやいや、お前の前で歌えるわけないだろ」
「なんで?」
「ん~、・・・お前より下手だからかな」
「そんなの関係ないよ!私兄上の歌がいい!!」
ねーねーとだだをこねる妹に兄は負けた。
その日もシルヴィアは兄の腕の中で幸せな眠りについたのだった。
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兄上だけが私を私として見てくれた。
兄上だけが私を甘やかしてくれた。
兄上だけが私を愛してくれた。
兄上だけが・・・・・
アルビノあんまり詳しくないのに使っちゃいました・・・
間違ってたらごめんなさい。。。