大好きな兄上
主人公 シルヴィア 愛称シルヴィ 5歳
兄 カイル 20歳
絶滅寸前の部族で生まれ育った兄妹のお話。
私は年の離れた兄がとても大好きだ。
「シルヴィは本当に可愛い」
そういっていつも大きな温かい手で私の頭を撫でてくれた。
兄上、兄上、兄上。
大好き。
「ずっと一緒だよ。約束」
「ふふ、嬉しいこと言ってくれるね。じゃあここは定番の台詞をひとつ」
「?」
「・・・でもいつかは嫁にいっちゃうんだよなぁ」
「!!行かないよ!兄上が一番好きだもん!!今も、これからもずーーっと!」
「・・・シルヴィ、お前・・・」
「一緒!!約束!!・・・・だめなの?」
潤んだ瞳で見上げると兄が、がばっと抱きしめてくる。
「・・・お前、お前なんでそんなに可愛いの?!可愛い子はこうしてやる!!」
「っきゃははは!!きゃーーー!!」
ぎゅーっと抱きしめて高い高いをしながらくるくる2人で回った。
目が回って2人で地面に寝そべった。
「もー兄は駄目だー」
「じゃあ今度はシルヴィが高い高いしてあげるぅ」
「5歳児が何をいっとる。ほーら持ち上げてごらーん」
「にゃー!重いよー!潰れる!!」
いつまでもふざけていたら、族長の息子で、兄の幼馴染が迎えにきた。
「お前らいつまで遊んでるんだよ。もう出発するぞ?」
「あーそうだった」
「?またお引越し??」
高度経済成長で世界が先進国化しているなかで、私たちのような部族が暮らせる場所が極端に狭くなってしまった。そのため住む場所を定期的に代える習慣ができていた。
私たち一族は数が少ないため、引越しは簡単だ。
昔はもっとたくさんいたのだが引越しのたびになぜか数が減っていくのだ。
一族の者たちは裏切り者と消えた人々を罵っていた。
「そうだよ。ここももう危険だからね」
「おい」
「兄上?」
いつもとは違う兄の声に不安になって呼びかけるが、すぐにいつものように笑って頭を撫でてくれた。
「おい、お前シルヴィアに言ってないのか?」
「この子はまだ5歳だ」
「でも・・・」
「シルヴィの前でその話をするな」
「どう考えても1番危ないのはシルヴィアだろう?!」
「やめろ、シルヴィが脅える」
兄が私を抱き上げ、心配そうな顔を向けてくる。
「兄上?」
「お前は何も心配しなくていい」
「シルヴィアは頭もいいし、きっと理解する。だから・・・」
「説明なんかいらない。シルヴィは俺の妹だ。俺が必ず守ってみせる」
「お前、いいかげんに・・っつ!」
瞬間、一族で居を構えていた方向から、ズドドドドドドという音が鳴り響き、悲鳴が森に木霊した。
「親父!!」
族長の息子がその方向へ走り出す。
私は怖くなって兄にしがみついた。
「・・・シルヴィア、ここに隠れて待ってるんだ」
「!!」
「すぐ戻ってくる」
「一緒に行く!!」
「大丈夫、必ず迎えに来るよ。俺のお姫様」
そう言って、強く私を抱きしめ駆け出した兄を呆然と見送るしかなかった。
「兄上・・・行かないで、一人にしないで・・・ちゃんといい子にしてるから・・・帰ってきて。迎えに来て。・・・怖いよ、兄上ぇ」
兄は帰ってこなかった。
頑張ります。よろしくお願いします。