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第27話 大災害の予兆

 燃える牛にぶつかったもう一匹の牛も、瞬く間に同じくらい燃え上がり……数秒後には、どちらの牛もドロップ品のカプセルへと姿を変える。


「あ……ああ……」


 ふと後ろを振り返ってみると、水原さんが口をあんぐりと開けたまま固まっていた。


「すみません、人の技を勝手に真似しちゃって……」


 自分の技を取られたことに気を悪くされてたらまずいと思い、一応俺は水原さんに頭を下げた。


「い、いえ、それはいいんですけど……何なんですか今の威力は⁉ 温度も大きさも、あまりにも私のと次元が違うじゃないですか!」


「にゃ〜ん(水原さんのが直球だったから、タマは変化球にしてみたにゃ)」


 いや、タマの炎弾の軌道もほとんどストレートだったと思うが……。


「にゃ(スプリットにゃ)」


 なるほど、スプリットか。

 確かに、両サイドに離れた位置にいる二匹の敵を連鎖的に倒してたし――って、それボウリングのスプリットやないかーい。

 野球のスプリットはこう、フォークボールよりちょっと速くて落ちる量が少ない球のことを言ってだな。


「タマちゃん、わざわざそのボケのためだけにあんな大技を……?」


 ほら、水原さん引いちゃってるよ。

 しかし水原さんはすぐに気を取り直し、バッグからにゃ〜るを取り出してこう言った。


「って、敵を倒してくれたのでご褒美をあげないとですね。ほら!」


「ごろにゃ〜〜ん!」


 にゃ〜るが出されると、タマは機嫌良さそうにしっぽをゆらゆらさせながらそれを食べた。

 ちなみにタマ曰く「やる気モード」なる普段と別の形態があるそうで、それはボス戦等の節目となる戦いでにゃ〜るDX(デラックス)と共にお披露目したいということになったので、ここで出しているのは通常のにゃ〜るだ。


 それからしばらくは、普通にダンジョン内を歩いての探索が続いた。

 同じボケを二度する必要も無いと思ってか、道中で出会った敵はだいたいただのひっかきで倒していた。


 しかし、中盤くらいまで歩みを進めると……突如として、俺たちは広々とした開けた空間に出ることとなった。

 その空間の中心には、八面体の赤く光る水晶が浮かんでいる。


「あれは……?」


 その不気味な光景に、俺はそう質問をした。


「ああ……ここ、モンスターハウスですね。あの赤い水晶を破壊すると、数十匹〜数百匹単位の魔物が大量湧きしてきます。勝てばボス部屋までの隠し直通ルートが出現するメリットもありますが、Aランク探索者ですら苦戦するレベルの数の暴力なので、水晶を破壊する者はほぼいませんね」


 質問には、水原さんが答えてくれた。


 なるほど……そいつは良い見せ場になりそうだな。

 スルーするのが常識なようだが、せいぜい先日の暗黒観音使いが苦戦する程度ってことなら、タマが負ける要素は見当たらないと考えていいだろう。


「分かりました。では水原さん、例の新商品を」


「おっ、やるんですね! それでは皆さん……お待たせしました! 実は今回、来月発売の新商品を初公開する予定だったんです。それがこちら……『MEOW(ミャオ)にゃ〜るDX(デラックス)』です!」


 水原さんは浮遊カメラの目の前で新商品を見せてそう説明し、続いて英語でも同じ説明を繰り返した。

 それからMEOW(ミャオ)にゃ〜るDX(デラックス)の蓋を開け、タマの前で中身を出す。


「ごろにゃ〜〜ん!」


 タマは今まで以上にウキウキした様子でMEOW(ミャオ)にゃ〜るDX(デラックス)に食いついた。

 そして……全部食べ終わると。


「にゃーーーー! にゃにゃーーーーー!(ヤーーーー! パワーーーーー!)」


 なんと――タマはそう叫ぶと同時に、全身から金色のオーラを噴出させた。


「やる気モード」って、そんな感じなんだ。

 なんか確かにゴールデンで今まで以上に強そうだが……一体どう変わったのだろうか?


 :金色になったwwww

 :いやそうはならんやろwww

 :もはやおやつというより強化系ポーションの類で草

 :誇大広告過ぎて一周回って好きw

 :これがジャパニーズキャットフードか!(訳:タマ)


 視聴者たちも盛り上がってくれてるので、ぜひとも期待に答えてほしいものだ。


 タマはまずいつも通り左前足を上げると、そのまますっと振り下ろした。

 すると水晶は跡形もなく粉々に砕け散った。


 かと思うと、一瞬のうちに広々とした空間は嘘みたいにモンスターでギッチギチになった。

 出現したのは、数え切れないほどの全長1メートルほどのスズメバチ型の魔物。

 頭では大丈夫なはずと分かっていても、トラウマになりそうな光景だ。


 そんな中……タマはおもむろに二本の後ろ足だけですくっと立ち上がった。

 そして、空中で前足をぷらぷらさせだした。


 すると――矢継ぎ早に、スズメバチ型のモンスターが近くの者から順に爆散しだした。

 数秒と経たず、スズメバチ型モンスターは全て木っ端微塵になり、変わりに怒涛のカプセル出現が始まる。


 え……今のって、まさか全部渾身の一撃?

 いやしかし、渾身の一撃は溜めが必要だったはずだ。

 しかしさっきのタマは力を溜めてひっかくどころか、もはやひっかきとも言えないほど適当にただ両足をぷらぷらさせてただけに見えた。

 しかも、一撃じゃなくて連撃でこれって……何が起こった?


「タマ、今のは……」


「にゃ(タマ、『やる気モード』の時は溜め無しで渾身の一撃が使えるにゃ)」


 ……そういう原理なのか。


「えーと……タマはこの金色の姿になると、溜め無しで渾身の一撃が使えるとのことです。もはや何が渾身で何が一撃なのか分かりませんが」


 俺は思考を放棄しつつ視聴者向けに解説した。


 :瞬殺すぎて草

 :え? 冷蔵庫にプリン取りに行ってたらモンスターハウス終わってたんだが……

 :↑ドンマイw アーカイブ見ろし

 :OMG……

 :渾身のデメリット消えたww

 :「何が渾身で何が一撃なのか分かりません」←その通りすぎて草


「というわけで、新商品『MEOW(ミャオ)にゃ〜るDX(デラックス)』は絶対に買うべきですね」


 まあとりあえず、こう言っておけば案件としては成功だろう。


 :というわけでじゃないのよw

 :※普通の猫はにゃ〜るで金色になれません

 :雑スギィ!

 :それはそれとして、普通に良さそうだから買うけどさぁ……


 しばらくコメント欄を見ている間にも、もともと水晶があったあたりの場所に階段ば出現し、ボス部屋までの直通ルートを進めるようになった。

 タマが収納魔法でカプセルを全回収したところで、俺たちはそこを通ってボス部屋へ。


 ボス戦は特に見どころもなく、ただ渾身の一撃で瞬殺して終了した。

 自動帰還システムにより、俺達は地上へ。


「それでは本日の動画はここまでとなります! 皆さん、また次回の配信でお会いしましょう!」


 ちゃんと撮れ高があって良かったと思いつつ、俺は締めの挨拶をした。

 そして配信停止ボタンを押そうとしたのだが……その直前、俺は数個の気になるコメントを目にした。


 :ああ、タマちゃんがアメリカにいてくれれば……(訳:タマ)

 :今ニュージャージーがヤバいことになってるんだ!(訳:タマ)

 :この未曾有の危機で、この反則猫ちゃんの力が借りられれば……(訳:タマ)

 :この人「国境なき探索者」持ちらしいぞ!(訳:タマ)


 最後になって急に海外からのコメントが増えたのだが、そのどれもがSOSのような内容なのだ。


 いったいどんなトラブルが起きているのだろうか。

 む〜とふぉるむの最長飛行距離次第だが、もし可能なら行った方がいいのかもしれないな……。

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