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追放されし『異端者』、レオンの異世界革命奇譚  作者: 露月ノボル
【第四章】フェンローゼ家の生活
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第93話 ブランの問題

 その後に私たち4人は、執事のホルトさん……正確には執事長だそうだが、ホルトさんにのそれぞれのちゃんとした部屋が決まるまでは、客室に案内され、30分後にヨスタナ師の部屋で集合、とそれぞれ部屋に入った。荷物をまずは置いて、軽く休む。


 しかし、ここが私の新しく暮らすことになる家なのかもしれないが……落ち着かない。つい職業柄、身分制の存在と富の格差を考えてしまう。何らかの政治的リーダーは必要だろうが、神が存在する世界で果たして王や貴族は必要なのだろうか。


 妙な言い方だが、地球では神に確認の取りようがにないから、正確にいえば神の地上における代理人だる教皇が「この王に神は王としての権力を与えた」というから、王の権力は神から与えられた事になった。それでこの世界は確かに神が実際に王に権力を与えている国がかなりあるらしい。だが、世襲制が果たしていいのかどうか。


 私も特権階級の毒に溺れて堕落するのは嫌だな……と純真な子供の気持ちでつい思ってしまう。まあ、貴族制なり王政なり帝政なりも、それなりの言い分があったのだろう、富が一部に偏る事で裕福さと余裕が生じて、人類に文学や詩、芸術などが産まれた、とか。


 だがそんな風に文学や詩、芸術のためだと主張するところの地球のそういった専制国家が、憧れる芸術は、共和制や民主制があったローマ・ギリシャの文学、詩、芸術などの文化だった。


 それは置いておいて……落ち着かない。慣れるべきだろうが、かといって、個人的な身分制の好き嫌いの意味でない、身分制においても正当化できないような特権の振りかざしなどに酔って中毒になる事だけはしたくない。


 慣れるべきだろうが、かといって、個人的な身分制度への嫌悪感はあるにしても文化でもあるので表には出さない方がいいだろう、だが自分として身分制においても正当化できないような特権の振りかざしなどはしたくないし、そうする存在には遠慮しない。


 そんな事を思いながら、水差しの水をコップに入れて飲み、置いてあった菓子、クッキーのような、それより固いようなお菓子を食べて、ヨスタナ師の部屋へと向かう。


「やあ、レニーナちゃん、来たね」といい、リィズとブランは来ていて、ブランはヨスタナ師の部屋にもあったお茶菓子を食べているらしい。


「そうね、ちょっと監視というには弱いけど、様子を伺っている使用人の人がいるようね。悪意はないみたいだけど」とリィズはいい、「聞かれる心配しないでいいわ」と言う。


「聞かれてもいいんじゃないの?だって、あたしたち、家族になるわけだから、隠し事してもよくないし」とブランが最もな事を言うが、問題はどこまで隠し事をすべきなのだろう。


「まさか、リィズ君が…………だ、というのは言うわけにもいかないしねぇ」と、聞かれていないとはいえ言葉を伏せて、ヨスタナ師はため息をつく。


「ブランのことをいいづらいですね、2人分のたましいがあって、それがそれぞれ2つにわかれた、といったら、くるったと思われるかもしれません」と私もため息をつく。


「リィズ君の名を出せば、もしくはユースティア様の名を出せば、一応は納得してもらえるだろうけど……僕ぁ、それは最終手段にしといた方がいい気がするねぇ」とヨスタナ師が言い、私も同意なので頷く。


「あのぉ……あたし、かなり立場怪しいというか、あたしだって叔父さんと叔母さん、おじいちゃんに会いたいんだけど……」とブランが寂しそうに言う。


 確かにその問題を、ずっと旅の間悩んでいた。ブランの立場が不安定というか……身分証を出すように、身分証明が役所に登録してあるか、など言われると、とても弱い立場である。まあその辺はリィズもだが、どう思っているのだろう。


「私のことについては大丈夫よ。一応、私女神なのよ? しかも主神! さすがに書類を作るようには言ってあるわ」と聞いていなかった爆弾発言をする。


「ちょ、ちょっとまった、それはいくらなんでも、おおごとになったのでは……?」と私が言うと、リィズは笑顔でウィンクし指を立てて、「動物に姿を変えられる眷属に、書類をちょっと棚に余分なの入れてもらったの!」という。


 なるほど、では、問題はブランである。ブランもレニーナであり、私は、「レオン」の持つ女性性・アニマと、「レニーナ」の男性性・アニムスを持ち、ブランは、「レオン」の持つ男性性・アニムスと、「レニーナ」の持つ女性性・アニムスを持つ、とてもややっっこしい。


 つまりはどっちもレニーナとしての人生を送っていたわけで……私だけが「自分がレニーナだ」というのは傲慢な話だ。そして、ようやく会えた他の血縁の家族との交流を、「ブラン・ブロンシュテイン」として遠くから見て感じる事ができないのは、とてもつらい事だと思う。


 リィズをちらっと見る。リィズも考え込んでいる。ヨスタナ師も難しい顔をしているが、ブランが「えへへ」といいながら、満面の笑顔で言った。


「あたし、家族に会えて幸せだし、時々交代してもらえればいいよ! あたし、ミニサティナの身体、気に入っちゃったもん! だから、このままでいい!」という。


 当然強がりだろう。強がりだが……それは思い遣りでの強がりで、こうなったら……。


「ぜんぶ、言ってしまおう」と私は全員に言う。皆が驚くが、「ブランがつらいじょうたいのうえに、わたしのしあわせをなりたたせてはならないし、そのぎゃくもおなじだ。だから、こんぽんてきかいけつで、ぜんぶ打ち明けてしまったほうがいいとおもう」と私は言う。


「そのけっか、フェンローゼ家がリィズのちからやけんい、けんりょくをねらうなら、出て行ってしまおう」と言って言葉を切った。


 しばらく沈黙したが、ヨスタナ師が手を上げて言う。「妥協案じゃないが、二人のことを、フェンローゼ家に打ち明けるとして、リィズ様のことは言わずにユースティア様から話してもらったほうがいいんじゃないかな?」と言い、続ける。


「こういってはなんだけど、フェンリィズ様に会った事がある、12神柱全員の加護を受けフェンリィズ信徒になった者は、本当に世界的に多くない、かなり少数だ。フェンリィズ様が実は地上にずっと御降臨されている、なんて知られたら大事になるからね。なら、ユースティア様に代わりにその辺を説明してもらうのはどうだろう」という。


 リィズも頷いて、「私が降臨する事、めったにないからね……。確かにバレたら大事になるかも。なら決まりね! ちょっとユースティアに話、つけに行ってくるわ!」とリィズが立ち上がり、「でも、前世の話は本当に込み入った話になるから、多分2つの人格に分かれていて、身体をもう一つ、仮に用意して過ごしてもらっていた、と伝えた方がいいと思うわよ?」と言い、鏡の中に泉に沈むように消えていった。


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