第88話 王女殿下といとこ
私が「いとかもしれない者」、つまりは……そういう事なのだろう。私も驚いたが、どうやらアリエさん達はもっと驚いたらしい。いや、すごく驚いたらしい。
「え?! え!? まさか、レニーナちゃんか、ブランちゃんか、リィズちゃんが、実は貴族様……?! それに、王女殿下!?」とリーナさんはあわあわしていて、リーグさんは「……なるほどな」と冷静のようだが、冷や汗をかいている。
アリエさんは……「使徒レニーナちゃん様が、フェンリィズ様に愛されし者なだけでなく、貴族様……!? も、もう、尊すぎて死ぬ……」と、大変な、いや、もう、狂信的な陶酔状態に陥っていて、アリエさんはもうダメだ。私はてくてくアリエさんのとこに歩いて行き、「ああ! 私たちの、尊き使徒、レニーナちゃん様ぁ……!私の天使様ぁ……!」としつこいので、げんこつをする。ごちん。
「あ、痛いっ!? れ、使徒なレニーナちゃん様がげんこつを……しかし! これはご褒美……いえ、試練なのですぅ……! もっとげんこつしてくださぁい……!」これはもうダメかもわからない。
眺めていた兵士達と、第二王女殿下とやらと、私の……その、いとこ、らしい男の子が、ぽかーんとした顔をしていたが、第二王女殿下と呼ばれた女の子が「ぷっ!」と吹き出すと、笑い声を上げてお腹を押さえた。
「よい、皆の者、楽にして欲しい。まずは、わらわが礼を言う立場であろう。勇敢なる我らの兵士達に深い感謝を。そしてその……ぷっ!」と吹き出すと、また上品なのか上品でないのか分からない笑い方をハンカチで抑えながらして、侍女らしき30代くらいの茶髪の女性に、「王女殿下、はしたのうございます!」と注意を受ける。
「くくくっ、ぷっ、あはははっ、くくっ、すまぬ、許せ」と言いながら、今度は真面目な顔に戻ると、「本来は先に礼を言わなければならなかったのだが、生き残った兵士達、そして……忠義を尽くし命を尽くした兵士達の事を、まずはせねばならなかったのだ」と反転して悲しげに言う。そして私の目を見て言った。
「さて、おぬしはレニーナというのか?どうやらフェンローゼ家の縁の者らしいな。それはさておき、レニーナ、そして、その者の従者。そなた達のおかげで、襲撃者達からわらわや皆が護られ、そして傷ついた兵士達の命が繋がれた。本当に礼を言う、そなたらに感謝を」と優雅にドレスをつまみ一礼をする。それに兵士達はざわめき驚く。
そして、私から目を離しまだ膝をついている、アリエさん達とヨスタナ師、そしてリィズとブランに対して、「従者達よ、そなた達の名は何という?」と尋ねる。
するとヨスタナ師が瞬時に、「ははーっ!僕ぁ、こほん、私はヨスタナ・フェブリカにございます!平に、平ぃらぁにぃ!!」と言い、続いて僅差で瞬時に「ボク! いえ、私はリーナ・フェンリスです! 将来の宮廷魔術師護衛、じゃなかった、フェンローゼ家のご令嬢の護衛です!」とまたテンション高く謎な事を言ってくる。
続いてワンテンポ遅れて、アリエさんが、「アリエ・クロディスと申します。ユースティア様の神官をしております。そして! 恐れ多くもこのおかたが、尊きフェンリィズ様のむぎゅ」と何か言おうとするので私が手で口を塞ぐ。「よけいなこといったら、もうぜつえん。いい?」というと、目を開きすごい涙目でこくこくと頷くので手を離す。
それを横目に、リーグさんが「リーグ・エンデと申します。王女殿下」とのみ答える。寡黙なのをアリエさんとリーナさんにも教えて欲しい。本当に。
子供3人組が残ったので、仕方なく私が、「レニーナ・フィングルです。よくわかりませんが、よろしくおねがいします」とぺこりとし、続いてブランの横腹を私は肘でつつき、ブランは「え、えっと、王女様なのですよね……? あ、あたし、レニーナ・フィングルで……は、ないわけではないのですが、一応、ブランです……。でも、こっちのレニーナも、ルージュで!」と支離滅裂なことをいう。
私は「名字が欲しいならブロンシュテインとなのってほしい」と言い、「あ、あたし、やっぱり、ブラン・ブロンシュテインです!」と汗をかきながら言う。植物体なのに汗をかけるのかと不思議に思う。
すごく怪しむ目で、兵士達や王女殿下らがブランを見る中、リィズがそれを誤魔化すように、「私はリィズ・ブロンシュテインにございます、王女殿下。ウェスタ市でしがないチコレットジャム問屋を営んでいましたが、世界を見てこいと言われ隠居し旅の身にございます」と王女と見間違えるような綺麗な完璧な一礼をする。チコレットジャム問屋という設定は相変わらず謎というか奇天烈だが。
「そうか、その方らの名、覚えておく。特に、『使徒レニーナちゃん様』、このフォスティの従妹、の可能性があるらしいからな?」と厄介な名を覚えられていた。「あと、『使徒レニーナちゃん様』、その名の意味もあとでとくと話すがいいぞ?」と、厄介な人に厄介な事を知られたと本当に困る。
そういえば誤魔化すのにちょうど良い、「あの、わたしのまほうでは、敵はきぜつしているだけなので、しばったほうがいいですよ?」というと、慌てて兵士達が数人、隊長らしき人の指示を受け、倒れた敵兵を縛り上げていった。




