第87話 兵士達の救護と「お貴族様」
私たちが襲撃を受けていた馬車側の兵士に近づくと、息のある兵士がまだいる。傷だらけだがまだ立っている4人の兵士が、「君達は一体……!?」と言いつつ剣を構えながら馬車を守るように立つ。
それは無視して、まずアリエさんに、「わたしたちでけが人をたすけましょう! アリエさん、おねがいします!」というと、「かしこまりました、使徒レニーナちゃん様!」とまた良く訳の分からない呼び名で呼ばれ、「やめてください!」と顔を赤くして言いながらも、まずは人命救助が第一だ。
息も絶え絶えの兵士がいて、胸の鎧におなかの部分に刺し傷がある。恐らくは内蔵が複数やられているだろう。
私は治癒術を使うため、「めがみユースティアよ、かの者にいやしを!」と非常に恥ずかしい言葉を言うと、【……わたくしに祈るのを恥ずかしがるのはどうかと思いますけど……まあ、前世が前世ですし、元は魔法がなかった世界出身でしたものね、分かりましたわ】と言い。黄色い光が光ったかと思うと、傷が塞がっている。自分で使っておいてなんだが、えっ、と思ってしまった。一体どういう原理なのだろう……。
そして次々にまだ息のある負傷者を治癒し、アリエさんも……ものすごい恍惚とした表情でこっちを見ながら治癒していく。
負傷者は合計16人は助かったようだ。目が覚めたらしく、兵士達がきょろきょろしている。馬車を守っていた4人のうち、3人が歓喜の声をあげて生還した16人に喜びの声をかけている。あの内戦での戦場での野戦病院でも、こういう感動的な光景があったが、思わず胸が熱くなった。
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と思っていると、残った兵士一人は馬車の中の人間に声をかけていたらしく、馬車の扉が開くと、残りの兵士ははっ、と気がついて馬車の前に並び、膝をついた。
馬車からゆっくりと降りてくる人物は、馬車が相当に豪華なものだったので予想していたが、貴族らしくドレスを着た……まだ幼い子1人と少年1人、片方は赤毛の私と同じくらいらしい5,6歳くらいの子と、もう片方は銀髪の、十代半ばくらいな少年だろうか。その後ろから、どうやら侍女らしい女性が降りてくる。そして、その十代前半くらいな、年上の少年が言った。
「負傷した兵士のみなさんが快癒してよかったです。命を尽くして戦ってくれ、ありがとうございます。そして、戦い亡くなった兵士達を悼みましょう」と目を瞑って祈りの姿をする。膝をついた兵士達も祈りを捧げる。
「遺体を運びたいですが、残った馬では運ぶ事ができませんね……。ローゼクオートに伝令を。襲撃を受け死者あり、至急応援を、と」と言うと、1人の兵士が「はっ!」と叫び、普通の馬車のうちの1台から鞍を出し、その馬車に繋がれていた、無傷の馬を馬車から枷を外すと、早馬をするらしく、私たちの進行方向だった方へと賭けていった。
私たちが様子を見て立っていると、そのうちフェブリカ先生とアリエさんが膝をついていた。そしてフェブリカ先生は小さな声で立っているままの私たちに、「相手は貴族様だ、膝をついて……!」という。革命家に貴族に膝をつけなどと、それはとても屈辱的である。断固として拒否して素知らぬふりをした。
リーナさんとリーグさんは急いで膝をついたが、私とリィズとブランは膝をつかず様子を見守っていた。すると今度は私たちの方へ向いて、微笑みながら言う。
「貴女方は冒険者でしょうか。それとも……紋章は消してあるようですが、あれは、ウェスタ市の護民官の馬車ですね? 貴方がもしや護民官でしょうか」とヨスタナ師を見て言う。
するとヨスタナ師は慌てたように、「ぼ、僕ぁ違います! 僕ぁただの教師でして……その、この書類を見て頂ければ、分かるかと、平に、平ぃらぁにぃ!」と、ヨスタナ師は案外権力や権威に弱いのかもしれないと思った。
するとその少年は目線を兵士に向けると、兵士の一人が立ち上がりヨスタナ師の元へ寄ってきて封筒を受け取り、少年へと恭しく膝をついて渡す。少年は封筒を開けて中の手紙と書類を見ると、かなり驚いた顔をし、動揺したような表情をしたかと思うと、表情が戻り、今度は5,6歳の女の子に膝をその少年がついて、恭しく言った。
「第二王女殿下、あの者達ははどうやらその、僕の、従妹……かもしれない者と、その従者にございます」と。




