第81話 リーグさんの悲しい過去と、リィズ
少し気まずい空気の中、リィズが自己紹介を始めた。
「冒険者の二人、はじめまして! 私は、もともとはチコレットジャム問屋をしていたけど、隠居して世界を回ってるリィズと言うわ! 人には言えない秘密の『義』あって、私はこのフェブリカ先生とレニーナと旅をしているけど……おっと、その先は言えないわ、ごめんなさいね!」と、意味不明な供述をし始めた。チコレットジャム問屋とは何だろう。
「そ、そうなんだ! リィズ君はレニーナ君の村のチコレットを仕入れてくれてたんだけど、事件を聞いて助けに来てくれてね! とても若い、というか幼い子だけど、世界を見てきなさいとチコレットジャム問屋を切り盛りしてたのを一時引退して、僕らと旅してるんだ!」と、ヨスタナ師がものすごくナイスなフォローをしてくれる。よくあんなホラ話に即興で合わせられるものだと感心してしまった。
私がじーっと冷たい目で見ていると、リィズは目を逸らし、「そして、ローゼクオート市にレニーナの身内がいるらしくてね! それで旅をするのを、私もこの身体を流れる血が……『義』を成せ! と騒ぎ、私は二人の保護者としてついてきてるの!」とドヤ顔で言う。
後半はほぼ意味不明だが……というか、神の身体には血圧がない、とグルードが言っていた気もするが……。
しかし、ヨスタナ師が「じ、実はそうなんだ! リィズ君には、僕ぁ頭が上がらないよ!」とまたフォローをすると、アリエさんとリーナさんはやけに熱心に聞いて、「リィズちゃんはすごいのね!」「幼い……若いのに、偉いわね!」と感心している。何故だ。
ブランが次は自己紹介をしようとして……「えっとぉ……あ、あたし、レニーナ、じゃなくて! レニーナだけどブランなレニーナなの! あ、そうだった、でもあたし、やっぱり、ただのブランっていうの、よろしく!」と、何も考えてなかったらしい。
「ブランはわたしのともだちなんです。だよね、ブラン?」とわたしが笑顔でアリエさん達に言いつつ、ブランを向いてものすごく力を込めて目線を送ると、「う、うん! あたし、ルージュの、えっと、じゃなかった、ルージュなレニーナのともだち!」とびしっと背筋を急に伸ばして叫ぶ。
「『ルージュ』はわたしのニックネームです」と笑顔でアリエさん達に一言伝えて、ブランの方を向き、笑顔で目線で圧力をかけると、ブランは身体を震わせて目を背けた。
「あの、リーグさんは、どんなひとなんですか?」と私が試しに話題を無理矢理に変えがてら聞いてみる。リーグさんは無言でずっと御者をやっていて、まあ、こっちの話が聞こえていると思うが、ブランのやらかしを誤魔化すため、気になって聞いてみた。
すると、アリエさんは「リーグは……その、ね? すごく真面目なひとよ!」と困ったような笑顔で言い、「でも愛想があまり無いのと、無口なのは、許してあげてね?」とウィンクする。
リーナさんは「まあ、そうねぇ、ボクから言うと、ムッツリだね!」と、ちょっと何を言っているか分からない事を供述し、続けて、「だって、私たち美少女2人居て、なーーんにも反応しないんだから!」といたずらっぽく御者席に目を向けてまたもや意味不明な供述をすると、馬の手綱がぴしっぴしっと鳴って、馬車の速度が少し上がった。
「剣士さん、なんですよね……? お強いんですか?」と何となく護衛でもあるし聞いておきたくて聞いてみると、「その……ね? リーグはね、元々はある村自警団をやっていたんだけどね……。その時、のことで……まぁ色々あってね、今では立派な剣士よ!」と、リーズさんが言う。
その瞬間、また、ぴしっ、と馬の手綱が鳴り、大声で「良い! 依頼人に話せ! 隠すことじゃない!」と御者席から叫ぶ。よく小声にしたリーナさんの声が聞こえたものだと感心していると、すごくアリエさんとリーズさんが、かしこまった感じで、神妙にしている。
「実はその……リーグは、こことは離れた、ルカエニ州の、州境の小さな村の、自警団をやっていのだけど……そこに、盗賊団が攻めてきて……ね……」と、アリエさんは言いづらそうだ。
「その……実はボク、アリエ、リーナで2人でのペアパーティーだったんだ。駆け出しで……それで、そんな時にルカエニ州の州境に近い地方都市のギルドにいたんだけど、ギルドにリーグの村からの救援の要請が入ったんだ……」と、少し落ち込んだ目でリーナさんが言い、言葉を続けた。
「ギルドで急遽募集がされて、10パーティー、総勢38人だったかな、集まって、救援に向かったんだ。でも……村は完全に、既に盗賊に襲われて、盗賊どもは既に去って、もう破壊や略奪、それに……口には言えないほどの事や、残酷な形でのことを、やりたい放題された後だった……」と、そのシーンを思い出しているのか、顔色を悪そうにリーナさんが言葉を切った。
「そんな時に……酷い重傷を負った、唯一生き残っていた自警団員として、救護所に運ばれてきたのが、リーグだったんです……。私はまだユースティア様の力を使うのには未熟でしたけど、急遽作られた救護所で、回復術で救護をしていて……なんとか、リーグの命を助ける事ができたんです」と、そう、アリエさんは、そう命を助けられた事に関しての、安堵は浮かべて、それでいながらも辛そうに続けた。
「リーグは……自警団員として、自警団の団長の、お父さんをとても尊敬していて……でも盗賊達は、100名程の大盗賊団だったそうで、その、自警団は必死の防戦にも関わらず敗北してしまい、リーグのお父さんは、一番盗賊達を手にかけていた分、復讐の対象になって、とても残酷な形で、嬲り殺されてしまって……リーグが死にかけ意識がなかったから、死んでいると見落とされただけで、他の自警団員もなぶり殺しに……」と、アリエさんは、続けるのが辛いのか言葉を切った。
「それでリーグは意識が戻った後、すぐに村とお父さんの仇を討ちたかったみたいだったんだけど、回復術だってようやく命を引き留めた程度だったから、慌てて止めさせて街まで何とか運んだのだけど……やっぱ直接命を救った立場なアリエは心配になったみたいでね? 街に戻ってきた後も、ずっと、つきっきりで看護してたのよ。そして奇跡的に後遺症もなく順調に回復していったんだけど、そんな時に、領主様の州兵が盗賊団を既に全員討伐したってお触れが出て……」とリーナさんは、ちらっと御者席を見ながら、アリエさんの言葉を引き継いでそう言った。
「それで、身体が良くなった後に……行き場も目的も失っていて、かなり精神的に呆然として絶望した状態だったから……ならボクたちとパーティー組んで旅しない? って無理矢理3人パーティーの登録させちゃって、それから今に至る、かな……」と、段々と声が少し小さくなってくる感じに言葉を切ると、御者席から声がし、「感謝している」とリーグさんが後ろを見ずに一言言った。
私やブランやリィズが言い淀んでいると、「……つらいお話をさせてしまいましたね、申し訳ありませんでした」とヨスタナ師が謝る。さすがだと思う。
リーグさんは御者席から「気にするな」と相変わらず後ろを向いて一言、声をかけてくれたが、しかし私の時の場合は魔物だが、本当に危険な世界なようだ。盗賊の場合は治安の問題で人間の範疇にしてもだが……。ふと、横のリィズを見ると、とても悲しい目をして下を俯いていた。
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