第80話 ウェスタ市から冒険へ出発
馬車のある市庁舎に行く前に、雑貨屋で様々な長旅に必要な道具を買って行く。ヨスタナ師とリーグさん、そして意外な事にアリエさんが、それらの話で盛り上がり買い物をして、そして私は言った。
「せんせぇ、ぶきやさんをしてる、父がおせわになってた、ペートさんのところに、そうびをそろえがてら、あいさつにいっていいですか?」と尋ね、ヨスタナ師は「そうだね、僕達も自衛の武器が必要だし、ロイさんもシエラさんも、ペートさんにお世話になっただろうから挨拶に行った方がいい」と言ってくれた。
大通りを少し横に入ったとこにあるお店のドアを、カランカラン、とドアを開けると懐かしい記憶が思い出されてくる。父と母と、確かにここに来たのだ。
「ん……? んんっ……!? も、もしかして、レニーナちゃんか!?」と暇そうにしていた、懐かしい、以前より少しやつれたような感じの、白い毛が混じった髭のペートさんが、がばっと立ち上がり、こっちへと走ってきて、涙を浮かべながら抱きしめてくれる。
「本当に……ロイと、シエルの事は、辛かっただろうなぁ……。よく来てくれた、さあ、まずはこっちに来な? 積もる話もあるからな」そう言われて作業台を囲む形で、パーティーの3人はちょっと座れなかったので立ちながら、ヨスタナ師は自己紹介をする。
「僕ぁロイさんからレニーナちゃんの家庭教師を1歳の時からさせて頂いています、ヨスタナ・フェブリカと申します。実は……」と、ヨスタナ師は今までの経緯を説明し、これからのことを語る。
頷きながらうなりながら、ペートさんは、「……なるほどなぁ。シエラさん、元貴族だとは聞いてたが、まさかフェンローゼ家だとはなぁ。それにしてレニーナちゃんまで街を去ると、寂しくなっちまうなぁ……」というので、慌てて私は言った。
「わ、わたしも、かえってこれるとき、かえってきたいとおもっています。どるふさん、いろいろありがとう!」と答えると、ペートさんは涙を浮かべながら何度も頷いてくれた。
「それで、旅の装備品を揃えたいのですが……」とヨスタナ師とリーグさんが目配せをしながらペートさんに言い、ペートさんは、「それなら……」と装備の説明をして、ヨスタナ師とパーティー3人と話し込んでいる。
ペートさんに会えてよかった……父と母と一緒に来たときを思い出す。涙が浮かんできてしまう。ウェスタ市は2度しか来ていないが、父と母と「村の外」に出た、数少ない「家族の旅」の思い出の地なのだから。
「ペートさんに会えて本当に良かったよぉ……。本当に、ママとパパと来たのは、全然時間が経ってないはずなのに、遠い昔みたいな感じ……」とミニサティナの姿をしたブランが涙を浮かべている。リィズは無言だったが、温かな目で見てくれていた。
ヨスタナ師とパーティ3人が装備を選んでいる中、ペートさんがこっちにやってきて、私の頭を撫でてくれた。「本当に……つらかっただろうな、レニーナちゃん。今回のことを手紙で、ロイとシエラの仲間だった、ドルフやルシアーナにも伝えたが……返事と入れ違いになっちまうなぁ」と髭を撫でた。
私はドルフさん、ルシアーナさん……父と母のお世話になったパーティーの仲間だったひとだ、と思い出して、「よかったら、どるふさんと、るしあーなさんに、父と母のこと、わたしのことを伝える、てがみを書きたいのですが、じゅうしょをおしえてもらえませんか? ペートさんのじゅうしょも、おてがみ出します!」とお願いすると、涙目になり頷きながらメモ書きに書いてくれて、私は大切に道具屋さんで買ったポーチに入れた。
ヨスタナ師とパーティー3人がペートさんと話してお金を払ったり挨拶をしたりし、私は「ペートさん、ありがとう!おてがみ書きます!」と言うと「ああ!ありがとうな、レニーナちゃん。どうか元気でな、それがロイ達も望んでいるはずだ」と言ってくれて、通りに出て大通りへ曲がるまで手を振ってくれて見送ってくれた。
市庁舎に行きロンドさんや衛士のガイさんとクラムさんに挨拶に行った。皆、別れを惜しんでくれて、涙を流してくれたが、「またかえってきます!」と挨拶して、別れを惜しんだ。
馬車置き場で、厩舎の係の人に様々馬についての説明を受けて、私とヨスタナ師とリィズとブラン、そしてアリエさんとリーナさんが馬車に乗り、最初はリーグさんが御者をすることになり、市庁舎から出発した。
市の外壁の門へ馬車でやってくると……先回りしてくれていたらしく、ロンドさんと衛士さん達100人くらいだろうか、整列していて、敬礼をしてくれ、ロンドさん達が手を振って見送ってくれた。馬車の中から手を振り返して、私たちはウェスタ市を出発した。
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出発した初日にガタガタと揺れる馬車の中、風景を見ながらも、お互いに色々自己紹介や身の上話をお互いし合った。ヨスタナ師はお父さんは学者らしく、王立フェリシア大学の国家学教授をしているらしい。国家学とは、政治制度論や政策論や各国の慣習法などや先進的なロベルタ法典、政治哲学、種族論、帝王学、君主論、そしてウェンディス聖典とフェンリィズ聖教会……どうやら、各神殿を統一しているのが、フェンリィズ聖教会で、それらの教会法との関係など、様々なものがごちゃまぜになった、いわゆる政治学や法学が生まれる前の学問のようだ。
ヨスタナ師にも同じ道を進んで欲しかったみたいだが、王立フェリシア大学と、こっそり受けた聖コスリカ学院大学部を受けて、そっちに入って教員養成コースに入ったため大げんか、殴り合いの末、卒業後に教師になろうとしたら、親から王立フェリシア大学の力を使った圧力で、王都周辺の学校は書類審査段階で不採用、まあリンドル村に来たという経緯があるらしい。
アリエさんは、父は行商人だったが、護衛ごと盗賊に殺されたらしく、母の手一つで育てられ、それでもまだ10歳の頃に病で母が亡くなり親戚の家へ、そこから自立して冒険者になり、現在17歳だそうだ。リーナさんは、よく見えてなく気にはなっていたのだが、ハーフエルフだそうで、エルフの父と人間のお母さんは元々は冒険者をしていたらしい。
エルフというと、西大陸の閉鎖的だと言われるエルシア大樹林連合を思い出すが、どうも西大陸は「異種族の楽園」ではあるものの、異種族自体は東大陸にも普通に分布していて、この大陸中部のヨーデルマウス同盟に入っているエルフが主体の都市国家や、逆に加盟していないエルフの沿岸都市の都市国家があり、沿岸都市のエルフは蔑視の意味でなく通称「海エルフ」と呼ばれ、エルフといえばサティナフィア信仰で森などに住んでいるイメージだが、漁業や海運に従事しているらしく、耳の良さを活かして船を操舵するのに長けているらしい。
そんな海エルフの航海士の父と、町娘だったお母さんが恋愛結婚して産まれたのがリーナさんだそうで、冒険者になることはそれほど反対されなかったらしい。何故冒険者になったのか聞いたら、「旅が好きだから」だそうだ。
私は自分のことを話す中で、リンドル村のことを触れない訳にもいかず、その事を伝えると、アリエさんとリーナさんは、はっ、としたような顔をして、二人ともすごく聞いてしまってごめんなさいと謝ってくれてしまい、私はそういうつもりは当然なかったので、「かえって、きをつかっていただいて、ごめんなさい!」とぺこりと謝った。
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