第70話 主神フェンリィズと賢者ヨスタナ師
「こ、ここは!?」とさすがに驚くヨスタナ師。リィズは少し何だか神っぽい事ができたのが嬉しくウキウキしているのが私には分かる。
「人の子よ、勇敢と心優しさを秘めし、偉大なる賢者よ、ようこそ、天界へ」と慈悲深い女神のような……いや、実際リィズはとても優しい慈悲深い女神だ。そう、微笑みヨスタナ師に向かい合う。
「て、て、天界!?た、確かにここは、宿じゃないし、どこでもない……」とヨスタナ師の反応が何だか楽しい。
「や、やはり、貴女は、貴女様は、主神フェンリィズ様……! こ、こ、これは、今まで、この度は、僕ぁ本当に大変なるご無礼を致しまして、大変申し訳なく、平に、平にぃ……!」と、膝を折って、ははーっ、とし、私からすると何だか新鮮な、「ああ、この世界、ウェンディスでリィズが正体を言えばこうなるのか」と妙に面白さを感じてしまった。
「良い。汝の行い、しかと視ていた。汝には我は恩義がある。許そう」
うーむ、ちょっとまあ、私としては、リィズが久々に神っぽい事をしてウキウキしてるのは分かるが、これでは話が進まないし、こんな調子でずっと続くなら、あまりにやりにくい。
だからこういう時はげんこつに限る。がつん。
「いっっっったぁぁぃ!? 何するのよ! レオン! せっかく良い雰囲気だったのにーー!!」と、すぐにボロが出るのは、やはりお子ちゃまである。
「だ・か・ら!!! お子ちゃまにお子ちゃまって、言われたくないわよーー!!」
まあ、いつものやり取りをやってると、これまたヨスタナ師は、ぽかぁぁぁん、という感じで、ものすごく間抜けな顔で口をあんぐりあけたままな面白い顔をしている。
「せんせい、まあ、リィズは、久々に敬ってくれる人を見つけて、ウキウキで神っぽいのをしたかったっぽいのですが、こっちが素です。お子ちゃまなのでいつも通りで大丈夫ですよ」と、私がいうと、「もーーーーー!!! いいとこだったのに、余計な事言わないでよーーーー!! もう……いいわ……」と、リィズはすねてしまった。
「く、くくっ、あはははは!!」と突然笑い出したヨスタナ師、ついに脳が……と思ったが、爽やかな笑顔で、こう言った。
「大丈夫、リィズ君。君はそんな言葉使いをしなくても、本当に偉大な女神だ。君がレニーナ君にどれだけの慈愛を注いで尽くしたか、僕ぁ毎日宿でちゃんと見ていた。だからいいんだ、君は誰がなんと言おうと、偉大な女神だ。あ、フェンリィズ様、とこれからは呼んだ方がいいのかな?」とヨスタナ師はとても温かく、しゃがんでリィズの視線の高さで目を合わせて、そう微笑み言った。
「そ、そんなに褒めても何も出ないわよ!? で、でも、私のこと、リィズでいい……いままでと同じのがいい。普通に、接して……?」とリィズは目を合わせられて頬を少し赤くして照れながら、そう言った。
「わかったよ、それじゃリィズ君、あらためてよろしくね」とヨスタナ師は微笑み、リィズはこくん、と頷いた。
さすがヨスタナ師だ。リィズは格好つけて言ったが、神を前にしても、神だと分かっても、こう全てを受け入れ、優しく包む。賢者とは知識量のみの多寡で言うのではなく、こういう存在を言うのだ、と私は思う。
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