第66話 ヨシュアさん、リンドル村からの「帰り道」
まだ日が陰らないうちに、馬車でウェスタ市への帰路を走る。それぞれが無言で、思い出し思索にふけっているようで、あたしも窓の外を眺めながら、父と母の霊を見送れたこと、あとリンドル村での生活の思い出…レオンのせいで変な記憶も多いが、それでも様々あった思い出にふけっていた。
(少しバトンタッチ、いいかね?)とレオンの声が響く。あたしも想いにふけりたいから、(いいわよ?)と答えて譲った。
馬車は沈痛な面持ちの衛視のクラムさんや、思いにふけっているようなガイさん、そして私の隣の目をつむり、二人ともそれぞれの想いを馳せているように見える、ヨシュアさんが同乗していて、ヨスタナ師は御者役を引き受けてくれている。
「よしゅあさん、でしたか?今日はありがとうございました!」と私は子供らしく無邪気な笑顔で微笑んでお礼を言った。
突然の声と、私が笑顔で話しかけている事にガイさん、クラムさんは驚いているようだが、ヨシュアさんは不思議そうな顔をして、「着いて来させて頂いたのは私ですから、私の方が礼をいう立場ですよ?ありがとうございます」と微笑む。
小声で、ガイさん、クラムさんに聞こえないよう、「少しお耳をいいですか?」といい、ヨシュアさんは頷くと頭を私の口が届くところまでかがんだので、私は囁いた。
「レニーナの事をさとしてくれて、そしてリィズとの事をありがとう。スセジ女史」
そういうと、ヨシュアさん…スセジ女史は、微笑んだまま、「バレてしまいましたか」とイタズラが見つかった子供のような表情の笑顔になった。
「どういうおもわくが、とか、は置いておいて、まずはじゅんすいに助かった。礼を言おう、スセジ女史」と私は礼をし感謝の笑顔をして、「よしゅあさん、聴いてくれてありがとう!」と皆に聞こえる声で言い、ぴょこんと席に座り直した。
すると、ワンテンポ遅れ、(えっ!?ヨシュアさんって、あの、女神スセジ様なの…?)とレニーナが…って、私もレオンの記憶はあるがこれでも私もレニーナなつもりなのだが、困ったものだ。
(いいから!どうして分かったの?)と、レニーナが頭の中で言い…わかった、それはそうだろう。あんな、リィズとの事を窘めてくれる言葉は、リィズとの事を知っていたからだ。そしてリィズと再会できるように、あの濃霧でタイミングを作ってくれる事ができた相手は、自然とヨシュアだと分かるだろう。
そして、あとは赦しの女神であるスセジ女史であろう、というこの点はまあ勘だ。
そういうと、(勘って…間違えてたらどうするつもりだったの!?)とまだうるさいので、その時は他の神の名を11回言えばどれかは当たるだろう?というと、呆れたような、ため息つかれてしまった。よくもまあ心の中の声でそう器用にため息がつけると感心する。
森を抜け、ウェスタ市とその外壁が見えてくる。今日は長い一日だったと、だがとても大切な一日だったと、思い起こして目を瞑る。リンドル村に帰る事ができた。ただ…これからは、リンドル村から「帰ってきた」、と言わなければならないのだろうか……そう、想うと、本当に父と母、村の人達と「別れてしまった」と寂しくなる。
外壁の門を抜けて、ウェスタ市内へと入る。番所で一端止まり、またも衛士さんに最敬礼で「つらいだろうけど、頑張って!」と激励を受け笑顔で頭を下げて心から「ありがとうございます!」と礼を伝え、また馬車は街の中を走っていく。そして市庁舎の前で止まった。
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