第58話 悪夢と、3人の友達からの手紙
コンコンコン。ノックの音がする。「どうぞ」と答えると扉が開き、フェブリク先生が弱弱しい笑顔で眠そうにしながら「やぁ、レニーナ君。眠れたかい?」と尋ねてきた。
「はい、よく眠られました。フェブリカ先生」
と私は微笑みを被ったが、先生は首を横に振ると、「無理はいけない、嘘もいけないよ?」と言い、目元を指さした。
確認はできないが、恐らく泣いた後なのだろう。あんな夢を見るから。
「すみません…悪夢が、やっぱり無くならなくて…」
フェブリカ先生は、夢の内容を尋ねなどはせず、「そうかい、そろそろ朝食の時間だ。もう食堂で食べる事はできるね?」と尋ねられたので、私は「はい、できます」と答えて2人で食堂へと向かった。
食堂に行くと女将さんがいて、「おっ、嬢ちゃんもこっちで食べることにしたのかい。まあ部屋で食うんじゃ冷めちまうからね。好きなとこ座りな?」
と言われて先生と窓際の席に座る。そして先生は「実は良い話があるんだ」と言った。
「僕の方は、ようやく生徒の子供達の道筋は、なんとか作ってあげられたよ。幸いこのウェスタ市やエニエス地方に親戚がいる子が多かったよ」
そう先生は言い、私はエミリスちゃんやオリーラちゃん、ケルク君に挨拶できないままでいたな、と残念に思っていると、先生は続けた。
「これは3人からの手紙だよ。その、何で会えないの、とは言われたんだが、元気を失くしてるといったら、3人とも手紙を書いてくれたみたいだ。渡しておくよ」
と色違いの封筒を3通、先生は私に手渡した。私は急いで封を開けて一通一通読んでみる。
エミリスちゃんのお父さんは、商品の仕入れで他の街にいたらしく無事で、お母さんもあの避難民の馬車に乗っていて無事だそうだ。「さよならとは言わないよ、またね!」と書いてあるのを見て、必ずまた会いに来ようと思った。
ルローラちゃんの家ではお父さんは…あの村に残って戦った。お母さんは馬車で脱出できたようだ。「お父さんが死んだのが哀しくてつらいけど、ロイさんとシェラさんを失ったレニーナちゃんのほうがつらいよね」と書いていて、私はどっちの側もつらいのに、元気を出させようとわが身と比較して、そんな事を言わせてしまった罪悪感に駆られる。
ケルク君の家では、ケルク君のお父さんは冒険者で…村に残って戦ったそうだ。お母さんの方は馬車に乗れたらしく、この街に難民としてまだ居るらしい。「また冒険の本を読んで欲しいし、早く元気になるよう願ってる」と、無理をしているんじゃないかと心配になるがケルク君らしい事を言っていた。
「3人ともレニーナ君の事をとても心配してくれていたよ。落ち着いたら返事を出すように。いいね?」
と先生は言い、私はこの手紙を宝物にしようと思った。
「それでリンドル村へ行く事だけど、馬車で2時間とはいえ、さすがに護衛無しで行くのは危険だから、冒険者ギルドに頼もうかと思っていたけど、この前会った衛視さん2人が着いてきてくれるそうだよ。朝ご飯を食べたら市庁舎に行って馬車を借りて、でかけようか。それで準備は大丈夫かい?」
私は「はい、大丈夫です」と答えた。着替えや荷物の準備は特に無いけど…ただ、心の準備はまだかもしれない、でもこれ以上先生や衛視さんを待たせる訳にはいかないし、直視しなければと思った。
そう思っていると、女将さんがお皿を運んできてくれて、「はいよ、朝食、2人分だ。嬢ちゃんも良く食べるんだよ?」と一瞬女将さんは優しく微笑んで次の瞬間には不愛想の仮面を被った。
「さあ、朝食を摂ろうね。冷めたらここの女将さんが怒ると思うからね?」と冗談めかして先生は言い、私は微笑んで頷いてスクランブルエッグとソーセージを食べる。
冷めていないまだ熱い朝食は久しぶりだったので一瞬その熱さに驚くが、やはり温かいご飯は美味しい。つい夢中になって食べてしまい、それを先生が微笑みながら見て自分も食を進めている。
そう、夢中に食べて最後の一口を食べて一息つくと、先生も、あと女将さんも、優しげに微笑んで私の方を見ていて、なんだか気恥ずかしくなってしまった。
「その…ごちそうさまでした、ありがとうございます。先生、そろそろ…?」
と私が言うと、先生は「そうだね」と言って、女将さんに「そろそろ出掛けてきます、ごちそうさまでした」と言い、私も慌てて「ごちそうさまでした、美味しかったです!」と女将さんに伝えると、女将さんは微笑み「ああ、行ってきな、気をつけてきなよ?」と言った。
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食堂を出て軽く身支度をし、そして先生と二人で市庁舎の方へ歩いて行く。街は賑わっていて、何だか父と母とウェスタ市に初めて訪れた時を思い出してしまう。
そうしていると先生が、「大丈夫かい?」と心配してくれて、私は慌てて「大丈夫です、ごめんなさい」と、歩みを進めた。
道すがら、花屋さんに立ち寄り、手向ける花束を買う。綺麗な白い花と黄色い花の清楚な花束で、先生がお財布から出そうとしたので慌ててたが、考えてみれば私はお金もお財布自体も持っていない事に気がつき、顔を赤らめてお願いした。
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