第56話 フェンローゼ家
翌日、市庁舎の方から職員の人がわざわざ泊っている私達の宿まできて、「婚姻届けと、シェラさんがこちらに引っ越された時の異動届が見つかったので来てください、と呼ばれて、私とフェブリカ先生は市庁舎へと向かった。
市庁舎までの道は賑わっていて笑顔に溢れていた。親子連れの子供達のやんちゃに、母と父が微笑みを浮かばせている。
私はこれが父が、パパが護ったものだ、という誇りと寂しさに挟まれて少し早歩きし、先生はそれに歩調を合わせて察したようだった。
私達は市庁舎につき、受付のかたに挨拶をすると、お待ちしていました、と「受付番号38番」の札を手渡した。3階に上がると1人は昨日の衛視のかたで、もう一人は初めて会う衛視のかただったが、多分お話を聞いたのか、2人とも最敬礼をして、「どうぞ!」と通してくれて、頭を下げて護民官室へと行く。
コンコンコン。「ああ、どうぞ!」と声がしたので扉を開けると、副官のロンドさんが「お二人でしたか!」とデスクから慌てるように立ち上がる。
先生が、「お時間を取って頂いてすみません、ロンドさん」と挨拶をして、ロンドさんはソファに座り、「いえ、仕事も…その、リンドル村の事を、多少見通しが付いたので…って、気付きませんで、お二人ともソファへどうぞ!」と私達2人も座る。
「それでシェラさんについての書類が見つかった、とお聴きしましたが…?お手間が相当かかったでしょう」
と先生は、先生は悪くなく、私が悪いのに、そう言い、ロンドさんは答えた。
「いえ、インデックス化っていうんですか、全部そうするようにしている途中で、インデックス済みの書類なので手間もなく見つかりました」
と笑いながらロンドさんは書類をテーブルに乗せた。
「これがその、婚姻届とその婚姻証明書、異動届です」
そういわれて、私達2人はその書類を見ると、「ロイ・フィングル」、父の名だ、絶対に何があっても忘れない、父の名だ。そして…「シェラ・ルウ・フェンローゼ」という名前が書かれていて、住所も書いてある。ルピシエ州…王都に近い州だったはずだ。
「これは……シェラさん、貴族だったとは聴いていたけど、フェンローゼ公爵家とは…」
先生は驚いた顔をし、「私も本当に驚きましたよ」とロイドさんが相槌をうつ。
「フェブリカ先生とロンドさんは、その、フェンローゼ家というのを御存じなのですか?」
そう私が尋ねると、2人は顔を見合わせて、少し考えたかのような後、先生が言った。
「うーん、そうだねぇ、僕ぁ詳しくなくてゴシップで聴いただけだけど、いわゆる王国の三本柱のひとり、と言えばいいのかな?領内にファース経済を支える商業都市や金鉱を始めとした資源を持ち、財務卿や商工卿は当然、首席宰相も何人も排出してる。今の次席宰相もフェンローゼ家で、名門だよ」
そうフェブリカ先生は、冗談っぽい大げさなリアクションで「こりゃぁ参ったな」的に手のひらを頭に当てた。
「ただ、ロイ護民官との婚姻には、必須でありませんが親族の同意は、夫側、つまりロイさんの父親のしかありません。本当に、大恋愛の上の駆け落ちだったんでしょうね…」
そう、ロンドさんは言い、2人とも、そして私も、しばらく声が発せず思いにふけった。
父を本当に愛してくれて、父も母を本当に愛していて……どうしてその生活が、あんな事に…あんな救いのない、神などいない残酷なことに…!?
私は思わず、ダン!と机を拳で叩いてしまった。2人ともびっくりし、先生は「大丈夫ですよ」とロンドさんの方を見ないまま、優しい穏やかな声で言った。
「また、思い出してしまったんだね…。そう、思い出して怒ったり泣きわめいたりしても、それは罪じゃない。ただ、絶対にそれで誰かを巻き込んじゃいけないよ?リィズ君も含めてね」
私は急に冷静になってきた。リィズ………何をしているだろう…。もう、来ないと言っていた。私がそういったのだから、来るのを願うなんて、そんな虫の良い事はできないだろう、冷静になるべきだ、そして謝って仲直りを…。
12神柱…こんな悲劇を見落とすなんて、リィズが降り立った段階で分かっただろうに、何故……!!落ち着こう、待った、今はそういうことを考えるべきじゃ……!!
私はまた、思考の迷宮に入り、同じところをグルグルしては騒ぎ散らして泣き叫ぶ、そういう事を、先生やロンドさんの前でしたくない、と私は自分の腕を握って強くひねり、痛みで思考をそう流れないように落ち着かせた。
「レニーナ君、大丈夫かい…?」
と先生が尋ね、ロンドさんは下を向きながらも、気遣ってくれた。
「本当に、お父さんとお母さんの件、すまなかった。この街は、ロイさんとシェラさんに、二度助けられたんだ」と顔を上げ遠い目をしている。
私は、「もう大丈夫です、すみませんでした、フェブリカ先生、ロンドさん」と頭を下げた。
二人は頭を上げるよういい、先生は言った。「問題はこれからどうするか、だね」と。
「フェンローゼ公爵家はね、王都に近い、商業が盛んなローゼクォート市とその周辺の市や町村が多数ある、ルピシエ州を治めている家なんだ。ここからローゼクォート市間では…乗合馬車で、5,6日かなぁ…?」
とフェブリカ先生は言い、「乗合馬車の旅は、楽しくも苦しい、本当5,6日を昼は馬車の中で過ごして、夜には野営してテントを張って寝る、まあレニーナ君が大丈夫か心配だが…」と先生が呟いていると、はロンドさんがふと思い出した顔をしてテーブルに身を乗り出して言った。
「実はロイ護民官のための馬車が、市庁舎にはあります。ぜひそれを使ってください、多少は快適なはずです。御者も手配できますが、フェブリカ先生は馬車を運転した経験は…?」
と尋ねるロンドさんに、フェブリカ先生は少し照れ笑いしながら頭をかきながら言った。
「僕ぁ貧乏学生次代に友達と旅行するのに、共同で買った馬車を乗り回してましたよ。今考えると、費用は5等分にしたはずなのに、御者をやる確率は5分の1どころか毎回私がしていましたねぇ」と遠い目をして、「御者、できますよ。でもお借りしていいんですか?」と聴く。
ロンドさんは笑いながら言った。
「確かに護民官の備品になるのですが…言いづらい事ですが、私が今回、法律上繰り上がって護民官になっていますから、私の権限で、どうかお使いください」
そう頷いて言い、フェブリカ先生は立ち上がり、深々と頭を下げて、「助かります。ありがとうございます」というのに私も合わせ、「ありがとうございます、ロンドさん!」と言った。
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