第48話 別れ
「落ち着け!馬車や荷馬車、馬、それらに、女と子供、老人を乗せる!若い男は……フェブリカ!」
屋敷の周りに集まった人の1人らしいフェブリカ先生は、「は、はいっ?!」ときょどりながら返事をした。
「君はこの村の人間じゃない。馬に確か乗れたね?なら馬で先に、なるべく早くウェスタ市に行くんだ。ウェスタ市の副官に、スタンピードの報告と命令書、領主への援軍要請を書いた一式のこの封筒を届けてくれ。これが君への最後の仕事だ。あと、その後着いた子供や女性、老人を頼む」
といい、呆然としているフェブリカ先生に封筒と、袋を渡す。反射的にそれを受け取ったが気を取り戻した先生は我に返ったように言った。
「ぼ、僕も残ります!僕ぁ、武器とか持ったこと確かにないですが、この村生まれじゃないですが、もう4年もこの村で教えてきた。男手がいるなら…!」
そうフェブリカ先生は震えながらも必死にそう言葉にした。先生は本当に優しい先生だ。だが父は「いや、ダメだ」と答えた。
「ウェスタ市に避難したら、詳細を伝えてくれる人間、そしてこの難民を代表する男手が必要だ。わずかだが、報酬がてらレニーナを育てる養育費がてら難民を助ける費用がてら、の額が足りないが入れてある」
と父はさっきの袋を指さす。
「さあ!あとは時間との戦いだ!既に20分経った、順番として子供、女性お年寄りで乗ってくれ!時間がない!」
その声を合図に、村に駐留していた兵が振り分け指示をして、「こっちの荷馬車にもう1人乗せられる!」「慌てないで、落ち着いて!」と、場を鎮めながら誘導する。それを前に私はいやいやと頭を抱えながら振った。
「ねえ……パパ、ママ、お願い…!みんなでいっしょに逃げよう?そうすれば、建物とか畑とかは、あとででいいし、みんなで逃げれば…!」
そう言う私を手で制したあと、父は本当に優し気に声かけてくれた。
「残念だが…あらゆる移動手段を集めたが、乗れるのは詰め込んで、ようやく80人なんだ。護民官であり、騎士爵を持つ私が逃げる訳にはいかない」
と言い、つらい表情をしながら言った。
「本当はレニーナには母親が必要だ。なんとかしてシェラも逃げて欲しかった……だが、女性すら、全員は乗れないんだ。女性全員にクジをひかせ、シェラも泣き叫んだがクジを引かせたが…、結果は……残念ながら、クジに外れた……」
と父はつらそうな顔をする…そんなの……まさか……嘘……でも、今は父と母を困らせては、一秒でも早く、早く救援を、ウェスタ市から……違う!!うるさい!!今はそんなの関係ない!もう、黙って!!!
「そんなの…嘘…」「こんなこと、あるわけない…」とただ呟き涙が止まらない私の頭に軽く手をぽん、と載せて撫でた。
「レニーナもこんなに成長したんだなあ。パパは嬉しいぞ。さあ、馬車に乗りなさい。時間がない」
私ははっと思い出した事があった。神々の加護で使える魔法!そうだ!その手がある!早く!
「パパ、待って!私も戦える!魔法が使えるの!12人の神様たちから力をもらったの!ほら!」
私は手を天にかざして「ファイアボール!」と叫んだが、何も起こらなかった。そんな!?待った、まずは使った事があるのを使ってみるんだ!まずはそれからだ!
「そんな!?何で!?あれは嘘だったの!?そんな、それじゃ、『ステータスオープン』!」
そんな……使った事がある、効果が発動した事がある、「ステータス」でもダメなんて……何かがおかしい……違う!!そんなのが今問題じゃない!!今問題なのは!!私は本当に発狂したようにリィズに詰め寄った。
「なんで?!なんで!!どうして?!なんでなの!!今、使えなきゃ、何の意味もない!!使えないなら使えないでいい!神様なら助けて!村のみんなを助けてよ!!!!!!!」
そう泣きわめくようにリィズへと叫び詰め寄る私を、後ろから誰かが押さえつけ…ゴンッ、という強い衝撃と後ろ首への痛みがし、私は急速に暗闇の、意識のない状態へと、父の「レニーナ、幸せになれよ」と母「ママはずっと貴女を見てる。どうか生きて?」というとても優しい声を聴きながら、私の、私は、意識が落ちた。
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