第46話 嵐の前の静けさ
ドアの外にはあの中年の大神官が立っていて、どうやら待ってくれてたようだ。
「ユースティア様と2時間もお言葉を頂き過ごすとは…!よほどユースティア様はレニーナちゃん、君を気に入ったのだろう。いや、すごい話だよ!最長記録だ、それだけ目をかけて下さるユースティア様に感謝の心を持たなければならないよ?」
と、とても興奮しながらやはり聖職者からするとそういう感じに思ったのだなあ、と思いつつも「はい!ユースティアさまにかんしゃしてます!」と言った。
まあ、嘘ではない。母を助けてもらって父の怪我も治してくれたのは、ユースティア女史の力を借りてだろうから。不思議なことに何故かため息ばかりついていたが、日ごろの礼は尽くして伝えられたし、大成功といえよう。
そう思いながらまだ興奮している大神官が「いや、すごいことだ!」「我が神殿に2時間もご滞在なされてるとは!」といいながら道を先導してくれるのについていくと、応接間的なとこ、いや、応接間なのだろうが、やたら豪華な応接間のソファに、父と母が座っていた。
「レニーナちゃん!どうだったの?2時間もかかったから、ママ、心配しちゃったわ!」
と迎えてくれて、ソファから立ち上がって私の元へ来て抱きしめてくれる。なんとなく少し罪悪感と、母が心配してくれたことの温かさの喜びを感じて抱き締め返してしまった、手はまだ短いので、抱きしめた、からは遠いかもしれないが。
「レニーナ、洗礼おめでとう!レニーナも立派なユースティア信徒だなあ。2時間もユースティア様と話すのはかなり異例らしいぞ?大丈夫だったか?緊張したりしなかったか?」
と父もソファから立ち上がり母の後ろに立って心配してくれる。よほど異例な事なのだなあと思いながら、家族の温かみを本当に嬉しく思った。それだけでも、ユースティア女史の神殿に来た甲斐があったと思った。
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そのような感じに洗礼とやらが終わり、便宜的にユースティア信徒になったのだが、なかなか釈然としない。と、思ったら、ドアのチャイムがなって、「レニーナちゃん、あそびにきたよ!」「私も!私も、遊びに来たよ!」と声がし、エミリスちゃんとオリーラちゃんが来たようなので、とててと走って「ふたりとも、いらっしゃい!」と玄関で笑顔で迎える。
「その……洗礼、お疲れ様。あ、あと、誕生日…おめでとう」
エミリスちゃんやオリーラちゃんの後ろから、ケルク君の声が聞こえる。やっぱり男の子には女子ばっかの中には入りにくいか、そうだろうそうだろう、と私はにや、っとするが、あれ、私はそういう性格だっただろうか、とちょっと、びっくりする。なので急いで向かい入れた。
「3人ともいらっしゃい!ママがすごく頑張った料理が待ってるよ!」
そう玄関から上がるように靴を脱いでもらうと、母の声で「もうできたわよー!」と聞こえる。
そういえばファースでは、もしくはこの世界では、玄関で靴を脱いで靴下や素足で上がるのが文化らしい。地球でも東洋のどこかの文化でそういうものがあったと覚えている。
4人でウェスタ市に入ってお買い物をしたりと遊んだ話をお互いにして、色々な話題の話をしながら和気あいあいとリビングへ入った。
「うふふ、4人ともいらっしゃい!料理も並べたし、好きな席に座ってね?」
と母が迎えるが、リビングのテーブルには、大きな鳥の丸焼きがテーブルの真ん中にあり、、ホワイトシチューに、お肉を焼いたのを皿にソースで文字が書かれて「御誕生日おめでとう!」とある皿や、川魚だと思うが川魚のソテー、山盛りのサラダ、白いパンに果汁のジュースが入ったグラス、といった感じにならんで、思わず私は感嘆の声を上げた。
「うわぁ……!ご、ごうか、だね?ママ、大変だったよね…?」
母は「うふふ♪」と微笑みながら人差し指を立てていたずらっぽく言った。
「ダメよー?今日の主役はレニーナちゃんなんだから、スマイルスマイル♪」
ととても上機嫌で、3人に「そ、それじゃ座ろ?」と声をかけると、「シェラさん、おじゃましまーす!」「私もおじゃまします!」「俺、いや、僕も失礼します…」と三人三様に椅子に座り、私はテーブルでも玄関ドアから遠い、テーブルを見渡せる位置の席に座った。
「お!さすがシェラだなあ、これはすごい御馳走だ!やはり持つべきものは我が妻シェラだなあ!」
と父が言うと、「もぉ!ロイったら上手いんだから!でもそういうところも好き♪」と、またもやイチャイチャが始まると、終わるまで時間がかかりそうなので困った。
5分ほど新婚の時のままかそれ以上なイチャイチャタイムが終わって、こほんと咳払いをして父と母も席に座った。
「「「「「「「レニーナちゃん、5歳の誕生日、おめでとう!」」」」」」
こう誰かに誕生日を祝ってもらえるのは、やっぱり嬉しい。前世でも誕生日を祝ってくれた事はあるが、それとはまた違った、とても心温まる、嬉しいもので……私は、つい涙をこぼしてしまった。
「れ、レニーナちゃん!?」
「だ、大丈夫か?レニーナ!」
父と母、そして友達3人が心配そうにのぞき込み声をかけてくれた。だが私は悲しいから泣いたのではなかった。
「ぐすっ、ご、ごめんね?つい、その、う……嬉しくて、ないちゃって、えへへ」
とちょっと誤魔化すように言うと、父と母が席を立って私の所に来て、二人との左右の肩に手を置て言った。
「そうだったか、それならよかった。これからも、いっぱいいっぱい幸せな事を増やしていこう」
と父は微笑みながら私を優しい目で見た。
「レニーナちゃん、涙って喜びでも出るの、もう分かっちゃったのね?大丈夫よ、来年も再来年もお祝いするから。ふふふ、その時はもっと料理頑張っちゃうわ♪」
と母は私の顔を覗いてきながら、優しい声で微笑んだ。
「レニーナちゃん、私もいるよ!」「そうだよ、だから大丈夫!」「ま、なあ、一緒にいるだろ、学年上がっても」と3人が口々に声をかけてくれる。私はとても深く幸せを感じた。
……………それから食事を輪になって楽しくお話しながら食べて、少し友達と遊んで、プレゼントに囲まれながら、幸せな気分で床に入った。
……………スタンピード、と呼ばれる悪夢が起きたのは、その3時間後だった。
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