第32話 ドワーフのペートさん
ドアをからんからんと鳴らして入ると、カウンター越しに、作業台に向かった、低めの背なのにものすごく体格が良く太い腹をした、サンタクロース……というとアレだが髭を伸ばした、年齢不詳の男性がちらりとこちらを見た。
怒ってるのかと思ったら破顔して「おお、ロイか! そっちはシェラじゃねェか、おぉおぉ、子供もできたとは聴いてたが。こっちだ、入ってくれ!」とカウンターの中に入るように勧める。
「ひさしぶりだな、ペート。いや、実はさ、うちの娘のレニーナに、『ドワーフさん見に行きたい!』とせがまれてなあ……。あとちょっと新しい剣を観たくてな?」
そう父とペートと呼ばれたドワーフは肩をたたき合いながら再会を喜ぶ。
そしてドワーフのペートは母のとこまできて「シェラ、相変わらず美人だなあ」「いやだ、ペートったら上手い事言っちゃって♪」との会話をしたかと思うと、腰をかがめて母の足下にいた私をのぞき込んだ。
「ほう! ロイの子にしちゃ可愛い子じゃねぇか、こりゃ完全に母親似だなあ。さあて、俺がドワーフのペートだ! 嬢ちゃん、ドワーフに会いたかったんだって? よろしくなあ」と手を差し伸べられ、シェイクハンドをする。
「どわーふさん、はじめまして!」
と私は笑顔でいいながらも、この雰囲気の中、ラドクリフの現状を聴いたりするような空気じゃないなと、私だって空気が読める方なので思い、いかにも子供っぽく、「おひげ触っていいですか?」と頼む。
「ああ、いいとも! 好きなだけ触りな?」とあごをむけ、私は特に興味は無かったのだが子供らしい行動として提起したので、もしゃもしゃと、手で触った。
もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃも「ちょ、嬢ちゃん、そろそろ勘弁!?」もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃと、触って、私はドワーフの髭とはどのようなものかを探求する事ができた。
何故かペートさんは疲れ顔だが、父は母にどうも財布の相談をしているようだ。
「ロイの剣は……そうねえ、家計がそれほど余裕があるわけではないけど、いのちを守るためなら、多少高くても大丈夫だからね? 肝心なとこでケチっちゃダメ!」
そうむしろ母の方からいわれる父。父は「ははは、ありがとうな」といいながら、壁にかけてる剣などの武器類を観て回る。
「お前さんの目に叶うものはあると思うぜ?」とペートさんは髭をいじりながらにやりとする。
見渡し、手にとってみて、しばらく考えていた父は、一振りの剣を手にとった。
「よし、これにしよう」
ドワーフのペートさんは「ほう」と言い、がははと笑いながら父の肩を叩いた。
「さすがだな、ロイ! そいつは、魔石も装着されていて、使い手の筋力を強化する効果がある。あと、女神ルクス様の眷属、ゲイルスタット様の加護がついている」とペートさんは髭をさする。
「加護の効果は、そいつは念ずると、雷をまとったの刃になり、敵を叩きれ、触れただけで痺れらせられる事ができる。加護剣だな」
そのようなことが可能なのか……? 確かに筋力を活性化することは、出来そうな気がする。雷をまとった刃……想像ができない。
女神ルクスの眷属の加護、それだけで効果がついてしまうのか、と科学を軽く無視して無双する「神」だの「加護」だの「魔石」だのの存在に対して、いつか科学的に解明してみせる、と決意をあらわにする。
「どうしたの? 恐い顔して、レニーナちゃん?」
気がつく母がかかんで突然そういわれて、「ひゃぁ!?」と私は慌てて、「かっこいい武器ばっかりでつい夢中になっちゃって!」と、ママどうか信じてと願いつつ言うと、「そうなのね!」といい、父とドワーフのペートさんとの会話に入っていった。ちらっと常にこちらを見守ってくれているのは母親の鏡である。
しかし困った。ラドクリフに誰かに手紙を送ったりできないか、と相談したかったが、それはちょっと無理らしい。さすがにこの空気を壊すほど空気の読めない私ではない。むしろ読める気遣いのできる人間である。
ヨスタナ師は……教師だからいいのだ。
会計が終わったらしく、「また来いよ!」とドワーフのペートさんの声を後ろに店を出る。
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