第29話 リンドル村からしゅっぱつ
父が護民官を務める「リンドル村」の隣の「ウェスタ市」までは、荷馬車で2時間ほどらしい。せっかくだから「どうしてパパは大きな町の方にお家を建てなかったの?」と尋ねてみた、パパは頭をかきながらこう答えた。
「ひとつはここが俺の故郷の村だからさ。ただそれだけじゃワガママだよな。一番は、リンドル村の場合は兵士をそれほど多くは駐留させられないが、村自体は広い。だから魔物に襲われたら、ウェスタに家があったら指示も直接行って戦うのも間に合わないかもしれない。しかしウェスタ市はそれなりの規模なので守備隊は多い」
そうとても真剣な目で父はいい、すると悲しそうな、遠い目で見るような目で言った。
「…………実はリンドル村は俺がシェラやドルフ、ルシアーナ達と冒険者やってた頃、スタンピード、異常発生した魔物に襲われて、村が壊滅したことがあったんだ。亡くなったのは村民の8割だったかな。見知った、ガキのころ面倒見てくれたばあちゃんたちや、菓子を買った店の親父、そして俺の父さんと母さんが、亡くなった」
知らなかった……自分の住んでいる村に、それほどの被害が出ていて、そして、それほどの人々が亡くなり、その中には父の親しかったひとや……おじいちゃんおばあちゃんにあたる、父の家族が居たとは……。
「そういう訳で、駆け付けた時にはもう遅かったが、異常発生した魔物たちはウェスタ市の手前まで迫っていて、防衛線を張ったこの市の守備隊を背に、俺達のパーティーがソイツらを掃討した。その功績として、今、こうしてリンドル村を再建するために、騎士爵になり村に住んでいるわけだ」
と、父は少し恥ずかしそうに頭をかいたが、それはとても偉大な事をしていると思う。そう家族を失い壊滅した故郷を再建する……様々な想いがあったであろう。父が本当に偉大に誇らしく思えた。
そう、私が、その話を聞き見つめていると、父は微笑んで私の頭を少し優しげになでた。
しかし……馬車で、2時間か……。父はウェスタ市には守備隊がいて、リンドル村には父と、冒険者たちと少数の兵がいると言っていたが、それにしても2時間は大きい。
「それでは護民官、準備はよろしいですかい?」
と普段は村の商店でをしている、私の友達のエミリスちゃんのお父さんである、トータさんが言い、私達は荷馬車の御者席に母と私、父は荷台に乗った。
がたんがたん!!ごとんがたん!!
すごい衝撃と揺れ、母が抱きしめていてくれるから大丈夫だが、私が飛び上がって、落ちてしまいそうな揺れだ。これでも私は子供の頃馬車に乗った事もあるが、道と、車輪ががどうも悪いようだ。
車輪は当然サスペンションなどはない、当然ゴムタイヤでもない。道の整備こそしているだろうが……がたん!がたん! 脳が揺れた気がした。
「レニーナちゃんは馬車は初めてだものね、大丈夫? 酔ったりしていない?」と母が聞いてくる。
「だ、だいじょうぶ……」
そう答えながら揺れにうんざりとしている。速度はそれほど出ていないのに。多分、私の身体が小さく、体重も軽いためだと思うが飛び上がりそうな揺れで、思わず、交通インフラに投資を父は何故しないのだろう、と言いたくなってしまう。
このガタゴトした道でスピードが出せずで2時間なら、案外近いのかな、とも思うが、地図が縮尺とかは無く、というよりちゃんとした測量による地図でないから、どれくらい遠いか近いかあれでは分からない。
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