第27話 とおい国、ラドクリフ
だいたいは世界情勢は分かった。なんとしてもラドクリフの革命を指導すべきだ。
だが私はまだ4歳。そして私はまだ幼稚舎への行き来やお友達の家に少し行った事くらいしかない。
ましてこの大陸の港町まで旅をし、さらにフェータル海を越え、ミリタス連邦を横断してラドクリフまでたどり着くのはほぼ不可能に近い。
かといって見過ごすわけにも革命家としてはいかない状態の国である。何か手がないか。
うーんうーんと、去年ベビーベッドを卒業し与えられた子供用のベッドで唸っていると、急にママが「レニーナちゃん、おトイレ行きたいの?」と現れ、「きゃぁっ!?」と私は思わず驚き叫んでしまった。
自分の叫び声が「きゃぁっ!」と、あまりに女性っぽい……いや、女児ではあるのだが、それにもまた二度驚いてしまった。
「ううん、おトイレじゃないよ! ちょっと、考えごとをしてて……」とドキマキしながら正直に言うと、「恋の悩みじゃないわよね、どうしたの?」と尋ねられた。
私はどういえばいいか迷った。まさか「ラドクリフに旅行に行きたい!」というのは、この時代ではおそらく行くのに1か月半くらいかかるから無理だろう。何か手はないか。
「レニーナちゃん、また難しそうな顔してる……どうしたのか、ママに言わないと、めっですよ?」
それは恐ろしい。男女同権というよりも母は強しの我が家ではシャレにならない。ちょっと相談的に言うことにした。
「えっと……遠いとこに、行きたいんだけど、わたし子供だからいけないし、どうしたらいいかな、って」
母は、うーん、と悩んで、真面目な顔をして私の眼を見ながら尋ねてきた。
「そうねえ、遠くには行けないけど、遠くの場所なら絵とか本で見られるわよね。レニーナちゃんはどこに興味があるの?」
そう母は尋ねるので、正直に「らどくりふ……かな?」と答えると、母は少し驚いた顔をして、少し先ほどより真剣な表情で言った。
「ラドクリフ……どうしてそこにレニーナちゃんは行きたいの……?」
私はまさか、革命の指導をしたいからですとは言えず、「ちょっと、ドワーフさんが好きで、見てみたくて……」と答えると、母はうーん、と悩み、数秒考えた後、手をぽん、と叩いてにこっと微笑んで言った。
「そうねぇ、隣の街の、ウェスタにある武器屋さんとかなら、ドワーフさんがいるんじゃないかしら? そうね、ロイの剣がかなり痛んでるらしいから、家族3人でウェスタに行きましょう♪」
思いがけぬ話だ、物事は正直に言うべきである。特に母には勝手に違う事だと勘違いしてくれない限り、けっこうな割合で見抜かれる。それにおでかけは嬉しい。
だが困った、どうすれば、この海を隔てて国によって隔てられたラドクリフに革命の指導ができるであろう。
何か地理の本とかに載っていないか…この世界は、文明や社会制度の割に識字率がある程度高く、しかも活版印刷まで既に進んでいる。私の家で本がそれなりの数あったのは、そのおかげで安価に大衆向けの書籍が出せているからである。本!?
「ほん……。ほん。ほん!? そうだ! ほんがある!」と私はまさに青天の霹靂のように、私には雷が走ったように感じた。
「レニーナちゃん、ご本がどうしたの?」と母がきょとんとした顔をするが、「な、なんでもないよ!?」と誤魔化す。
製本などは難しくても、まずは書簡の形で送って、それをむこうで溜めてもらって、出版してもらえばいい。そして活版印刷で、それを広めればいいのだ。
そう興奮していて、しかも明日はドワーフの武器屋……目的はそれでは達成できないのだが、それはそれとして、異種族を見られるということで、私はその夜、わくわく感で眠れず、朝はおねむであった。
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