女神(めがみ)様の筋肉
他サイトでの企画で、777字ジャストの百合短編を書いてみました。
初めてジムで会った時、私は彼女を女神様だと思った。アルテミスやディアナといった、狩猟の女神様。そういった存在が地上に顕現したのだと。
私は常々、少しの贅肉が気になっていて(太っては居ない!)。それで軽い気持ちで近所のジムに立ち寄ってみて、そこで彼女に出会った。早い話が一目惚れで、自分でも驚いたのだが、私が魅了された点は引き締まった彼女の肉体であった。
私は自分を筋肉フェチだとは思っていないが、きっと女神様への憧れというものは持っていたのだろう。子供の頃に読んだ神話の本。その中に出てきた、潔癖に生きる力強い狩猟の女神。絵画で観た、女性らしさを残しながらも逞しい手や足、お腹や背中、そして脇腹。どんなに私が努力をしても辿り着けない、そのプロポーションを彼女は所持していた。
幸い、話しかけてみると、私と彼女の相性は良くて。あっという間に同棲を始める事となった。そして夜、家の中で私は彼女の肉体を堪能している。
「ほら、もう大丈夫よ。虫は退治したから」
私の腕の中で、ぶるぶると震えて怯えている彼女に、そう教える。潔癖な彼女は昆虫が怖いようで、神話に出てきた狩猟の女神様も、虫は怖かったのかも知れないなぁと私は思った。
「も、もう少しだけ、このままで居させて。貴女の腕の中って、落ち着くの……」
私の女神様が、可愛い事を言ってくる。私は一目惚れをした彼女の肉体をさすってあげて、今は彼女の内面も深く愛しているのだと自覚する。
「……私、貴女の体つきが好き……ギリシャ神話の大地母神みたい……」
私と同様に、彼女も神話の女神様が好きだった。そして好みは、私と正反対。彼女は贅肉がある私の肉体を愛していて、「もうジムなんか行かないで」と請われたので、既に私は筋肉の獲得を諦めている。こんな私でも彼女を愛していいのだ。私は彼女を抱く、自らの太ましい腕を見ながら幸せを噛みしめた。