忍び寄る足音
私はこの国の貴族だ。幼い頃から多くを学び人の上に立つ者の在り方を学んできた。
十五を過ぎてからは父から表立っては教えられない人脈、国の暗部を見せられ、綺麗事では国はまわらない事を知り父の汚いやり方も学んだ。
三十五を向かえた今では爵位も含めその跡を継いでいる。結婚して出来た妻や十歳なにる息子にも清らかな部分しか知られてはいない。当主のみが知ればいいと父からも言われたから。
つまり、孤独。
協力者、部下はいても私の傍らで総てを共有してくれる者はいない。それを私は酷く後悔している。父の代ではいなかった厄介なヤツらが私の腹の薬の量を増やしているからだ。
まずは義賊団の不遇の宿り木。
義賊団は今までもいたが奴らはのさばらせておける規模を超えている。私の部下や協力者に多大な被害をあたえ目障りな存在だ。
近々駆逐する事にしていたが、そんな時に現れたのがもう一つの厄介な存在。
正義の味方、サラダボウル。
ネーミングセンスも無いそいつらは赤、黒、黄、白、緑の服を着てわざと目立つ格好で大衆の目を集めて私の部下や協力者の裏帳簿等を晒していく。
そのせいで義賊団の駆逐どころか部下も協力者も次々に捕まっていき私の名が出る可能性が出てきている。
「くそっ!」
執務が手につかない。書類の積まれた机に向き合って書類を手に取っても奴らの事が頭にチラつく。
(コンコンコン)
「あなた、少し話を…どうされたのですか?」
「何でもないよ。ヴィクトリアこそ、執務室に来るなんて珍しいじゃないか。」
「それは……あなたは最近巷で噂されるサラダボウルってご存知ですか?」
ヴィクトリアの耳にもその名が入ってるのか…。ヴィクトリアは全良だ。義賊団も正義の味方も忌避せず褒めるだろう。今はそんなの聞きたくはないな。
「…サラダボウル?料理には詳しくないのは知っているだろう?」
「料理じゃありませんよ。…暫く顔を出して無かった実家に行こうと思ってますの。成長した孫の姿を見せたいですし。」
「ああ…いいね。しかし私は今忙しいんだ。」
「存じてます。私達だけで行ってきますから大丈夫です。」
「そうか。話がそれだけならすまないが…。」
「ええ、お忙しい時にお邪魔しました。」
食事の時でも問題ない内容なのに何故ヴィクトリアは執務室に来たのかは謎だったが屋敷から離れていてくれるのは正直助かる。
「道中気をつけるようにな。」
「はい。…何があろうとも対応出来るようにして行きますから安心して下さい。」
何故だろうヴィクトリアの顔は笑顔なのに胸騒ぎがする。このまま行かせるのは良くないとそんな気がする。
「ヴィ、ヴィクトリア…。」
「それでは、失礼します。」
部屋を出る背中に手を伸ばしたがその手が触れること無くヴィクトリアは退室しドアは閉まった。
ヴィクトリアが去っても落ち着かない…。きちんと話をすべき、そんな気がする。
(コンコンコン)
「旦那様、急ぎのお手紙が来ております。」
「…ああ。入っくれ。」
タイミングが悪いな。まぁ仕方がない。仕事を優先しよう。ヴィクトリアとはまた話しをすればいい。
手紙を受け取り中を確認する。見た目は普通の招待状だが法則読みすると全く別の内容だ。
“黒バラが散った”
これは仲間内で決めていた合言葉。
露見した、雲隠れしろ…か。まずは資料を隠さなくてはな。
「暫く此処に近寄らないでくれ。」
「かしこまりました。」




