日常の二
「まるで猫のように呼ぶなよ。ぉはよ。藤崎、今日体育あるからヨロ。」
気だるげに挨拶しに来た藤崎は男女別の授業中に夢花の俺の代わりにサポートをしてくれている良い奴だ。
ツインテールと棒付きの飴がトレードマークで飴専用ポーチを持ち歩いている糖尿病予備軍なのにスラッとして背が高いから羨ましい。
「うぃうぃ~。任せてナイト様。」
「ナイト…。」
「僕も居るのに黒崎にだけ挨拶…。」
「渡辺、たまたまだ。てかいつも藤崎とそんな会話してないだろ。」
落ち込んだ渡辺を気にもせず用が終わったと言わんばかりに藤崎は別のやつと話に行った。渡辺…哀れだな。
まっ授業始まったら元気戻るか。
一限と二限は平和に終わって三限は体育だから藤崎に夢花を託す。
「じゃあ宜しくな。」
「りょ。」
「はやと後でね~!」
男子だけになった教室で俺は誰より早く着替える。面倒な奴等に絡まれたくないからな。
たが今日は後一歩のところで逃げ遅れた。
「黒崎、そんな慌てんなって。」
「大西…俺の肩から手を離せよ。」
「分かってるだろ?俺の質問に答えさえすれば話してやるさ。」
「お前らも懲りないな…。」
大西の後ろには数名の男子がいる。
相撲部の大西は力も強いしガタイも良いから手を払っても無駄。どう逃亡したものか…。
「黒崎っ!目を閉じろ。」
渡辺の声で目を閉じると複数のうめき声と共に大西の手が緩んだ。心の中で渡辺に礼を言って勢いよくドアを開け駆け出すと、直ぐに後ろから大西達が追いかけてくる。
「待てっ!黒崎、この裏切り者めっ!!」
「身に覚えか無さすぎる。」
「我等が天使、蒼井とぉ脚神、藤崎を筆頭にぃ女子との深い交流を楽しむお前は裏切り者だあああ!!」
「誤解を招く言い方すんなっ!!!」
「ちょっと、ちょっとでいいんだ!ハマっているもの、好きな食べ物、得意科目、足のサイズ、何でもいいから女子の情報をくれっ!!」
「断るっ!」
そんなもの口にした瞬間死刑先行されるわ。知りたきゃ自分で聞けばいい。
いつもいつも女子が居なくなった隙を見計らって来やがって、体育前に大量使わせるなよ。
とりあえず女子がいる場所か体育館に着けば大西達も大人しい。渡辺は気がかりだが今は逃げるしかない。
後ろからかけられる言葉を無視して全力で走ると何とか捕まる前に体育館に入った。
体育館には女子もいるから大西達は悔しそうにしながらも何も言ってこない。チャイムが鳴る寸前、渡辺が来たが少しヨロヨロしている。
「渡辺、助かった。」
「僕の存在意義を示せただけで満足だ。」
「どうやって助けてくれたんだ?」
「コレを使ったんだよ。」
渡辺がポケットから出したのは如月のチア姿の写真だった。
赤いポンポンを持っていて、入場門が写ってるから入場時のものかな。
「僕は写真部だから記録撮影を任されていたんだ。横顔とはいえ良いお守りになる。」
「如月は神様かよ。」
「取られそうになったけど靴下ヌンチャクで何とか死守したよ。」
「そ…そうか。」
体育が始まってからは平和を取り戻し、昼も午後の授業中ももんだなく終わった。残るは帰り道だったが行きよりは大人しく、歩行者用信号機が一回落ちてきただけで済んだ。
「ただいま~!」
「おかえりなさい。はやと君今日もありがとう。バナナマフィン焼いたから食べて~。」
「ありがとうございます。いただきます。」
明日は今日より楽だといいな…。