かたい握手と宴をここに
月が真上に来て町の外から来ていた人達が宿屋に戻り広場には片付けをし終わった町の人達と俺達だけが残った。
ミントの隣には父親である町長が茶色の飾り気の無いステッキを右手に並び、その隣に美人の踊り子が並んでる。
なんとミントの母親らしく町長は俺と同じくらい普通の顔をしてるから期待値を上げてくれた。感謝!
町長が噴水に近づき水が溢れてるパイプ部分にステッキをぶっ刺す。
すると水がたちどころに止まり、噴水が一段高くなって下り階段が現れた。ゲームみたい!
「凄いカラクリだね。」
「すぐ閉じるからはやと達も早くはいれよ。」
スパイシーに促され町の人達に続いて階段を降りる。
階段はそんなに長くなくて降り終わった先は広い部屋になっていた。
「ようこそ、お客人。」
声をかけてきたのは宿屋の女将さん。
そしてその隣りに背の高いヒョロりとした顔色の悪い男の人?
「今は義賊団の団長として挨拶させてもらうよ。こっちは副団長だよ。」
「うぇ?!女将さんが?!」
「ハッハッハ!いい顔するねぇ。話があるんだろ?あそこでいいかい?」
女将が指さしたのは部屋の端に置かれた唯一の丸テーブルでテーブルを囲むように置かれた椅子は五脚。座ったのは俺達三人と女将さんと町長だ。
副団長とスパイシーは女将さんの後ろ、ミントと町長の奥さんは町長の後ろに立っている。
周りでは町の人達が雑談してるからガヤガヤしていてちょっと落ち着かない。そして祭りの三部とは。
「騒がしくて悪いねぇ。本当は騒ぎたいところだけど先に話しておかないと楽しめない。この場の皆に関係するはなしだ。私は間近で人と成りをみたし、スパイシーが信じたんだから私も信じるよ。私達を虐殺しようとする者がいるというのは本当かい?」
二度無言で頷くと女将さんは溜息をつく。周りの人達は小さく息を飲んだ。
「そうかい…。まぁ、義賊といえど盗人だ。恨まれているのも分かっている。事が起こる前に知れたのは神がまだ私達を必要としてくれているからかねぇ…。」
「女神が俺に告げたのは義賊団を助けろだった。つまりまだ間に合うんだと思う。」
「そうかい。それじゃあ…全力で叩き潰しにいかなきゃあねぇ。」
「女将さん、僕ははやと君や奈那葉ちゃんを危険な事に関わらせたくは無い。」
「それは勿論だよ。安心おし、一般人やお客人達には危害は加えさせない。団員だって一人も欠けさせはしない。だから、力を貸してくれないかい?」
俺と奈那葉は聖人さんに頷いて協力の意思をみせると聖人さんは差し出された女将さんの手を握った。
「僕達も助けられまたしたから勿論です。」
「ありがとう。」
握手した手を離した女将さんは椅子から立ち上がり町の人達に向き直った。しんと静まり返った空間は緊張感が凄い。
「私達は罪を犯してきた。しかし、それで救えた者は多い。その所業が招いたのがこの結果だけれど、神は私達を見捨ててはいないっ!今日は思い切り騒ぎなっ!!明日からは戦争だよ。次の宴は勝利してからだっ!」
大歓声と共に樽にジョッキを沈めて皆が一斉に乾杯し始める。
そんな中、副団長が壁の一角を探り壁を外した。現れたのは大きな鏡で、副団長がその鏡に触れると鏡が光った。
「今宵だけ本当の姿で楽しむと良い。」
副団長のその一言で約半数の人達が鏡の前に移動した。映し出された人達は光に包まれるとまさかの性転換している。その中にはスパイシーもいた。
「ス、スパイシー…。」
「はやと、実はだな俺は男だ!」
「はああああ?!」
「副団長の力で性別変えてたんだよ。」
ドーベルマン系女子じゃなくてドーベルマンだったってだったって事か?え、じゃあミントにはガチ恋か。
「ペッパー!」
男に変わったスパイシーに抱きついたミントは別の名前を呼んでいる。それだけで察せれちゃう俺よ…。
「ミント。やっと久しぶりの感触だ…。」
「…バカ。」
「三部は酒盛りだ!はやと飲もうぜ!!」
「俺まだお酒は…。」
あ、こっちじゃ酒は十五から飲めるのか。
「よし、飲も」
一歩踏み出した瞬間頭を強く鷲掴みにされた。じゃっかん痛い…。
「はやと君はブゥドウジュースね。葡萄みたいな味がするよ。」
「あ、ハイ。」
酔っ払ったスパイシー改めペッパーから聞いたのはプクンの町は義賊団の拠点であり団員が多い事、団員は基本的には性別を変えて生活している事、性別を変えてるとこを見せて俺を驚かせる事に成功したのが嬉しくて仕方がないという事くらいだ。
「お前も女になってみるか?」
「いや、遠慮しとく。」
密かに奈那葉がミントが正真正銘女である確認をして泣きながら抱きついていたけど見ないふりしてやった。
「腕相撲やるぞ~!かかってこいや~!!」
「はやと、俺達もやろうぜっ!」
「ふっ俺はひ弱だぞ?気をつけろよ。」




