小手先で終わりとはこの事
無事に無一文から脱したので宿屋に初お泊まり。隣で二部屋取って俺と聖人さんで一部屋、奈那葉だけで一部屋とした。
残念ながら部屋に風呂もトイレも無い。大浴場と共同トイレを使わなきゃいけないからちょっと不安…。
ちなみに朝夕食がついて五日間滞在で全部で七銀八銅。つまり銀貨七枚と銅貨八枚、七万八千円だ。安いのかは不明。
「宿も決まったから好きに見てきて良いよ。暗くなる前に帰ってくるように。」
俺と奈那葉はお小遣いを銀貨二枚ずつもらった。奈那葉は早々に外に出たけど、俺はどうしようかな…。
「聖人さんは今から何かするの?」
「ん~宿屋の女将さんにちょっと話を聞きにいくよ。」
「そっか。じゃあ俺も外を見てこようかな。」
軽い気持ちで外に出るんじゃなかったと激しく後悔した。どうやらさっき古着屋で高額で服を売った事が町民達に知られたようだ。
「坊っちゃん!うちの大根立派だろ?瑞々しくて甘くて何処にも負けない美味しさだ。今なら十本で銀貨一枚っ!」
「そんなしょべぇ大根より俺の育てたリンゴがいいよ。甘くて美味いよ!一箱どうだい。一銀五銅でいいよ。」
「あ~んなダメダメ。ほらっこの花綺麗だろ?ここの地域にしかない珍しい花何だが連れの嬢ちゃんにあげたら喜ぶんじゃないか?珍しい、大変珍しいものだから一枚銀二銅しちゃうけどアンタも男だ!どんといこう!!」
宿屋にUターン。
奈那葉はこんな中良く外に出たな…。
これじゃ普通に滞在なんてできないんじゃないかな。
「ハッ!」
部屋に戻ろうと振り向いたら宿屋の女将さんと目が合って逸らされた。
聖人さんに相談しに行こう。ボッタクられたらたまったもんじゃない。
「あ、あの…坊っちゃん?うち、今まだ部屋が空いてるから少し良い部屋に移れるよ。」
「あ、大丈夫です。今の部屋で満足してるんで。お気遣いなく。安心して下さい。過剰サービスいりません。」
逃亡。
即座にフェードアウトするのが大切だ。
「聖人さん…。」
「ん?お帰り、はやと君早かったね。」
「宿から出られませんデシタ。」
「洗礼に負けちゃったみたいだね。」
「聖人さん…もしかして……。」
「これも勉強だよ。奈那葉ちゃんは上手くやったみたいだね。さて、はやと君ちょっと手伝ってくれるかな。」
聖人さんに連れられ女将さんのところに来ると心なしか女将の表情が明るくなる。聖人さんちゃんとキャスケットかぶって来たのになっと思ったけどあの目は金か…。
「ま、まあまあ旦那様。何か御用ですか?」
「実は満月の収穫祭について聞きたいのですけど良いですか?」
「収穫祭についてですか?」
「ええ、実は露店でも出せればなと思っているのです。」
「露店…。肉屋と八百屋とパン屋が毎年出店を出してるから私より詳しく聞けると思うよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「何の店か分からないけど楽しみにしとくよ。それよりも…。」
「さあ、はやと君行こうか。」
凄い…聞きたい事だけ聞いて鮮やかに撤退した。女将さん名残惜しそうだな。
「あ、聖人さんこの前外に出るの?」
「もちろんだよ。」
普通に宿屋から出た聖人さんは普通に俺と同じように囲まれる。まさかこの人達ここにずっと居たのか…。店大丈夫なのかな。
「すみません、この中に肉屋さん八百屋さんパン屋さんは居ませんか?」
「「「ハイッ!」」」
勢いよく手を挙げて距離を詰めてきたから一瞬ビクッてなっちゃったんだけど。おっちゃん達怖いわ。
「御三方ちょっと中で話しませんか?ご相談があります。他の方は…また。あ、僕は強引な人って好きじゃないから避けたらごめんなさい。町の外で言いふらしちゃうかも。」
これが言わゆる蜘蛛の子を散らすようにという事か。




