日常の一
「おはようございます。」
「はやと君おはよう。今日は少し早いね。まだ夢花達は部屋だよ。」
俺の家はマンションの5階、夢花の家は同じマンションの2階。自分の支度を済ませたら夢花の家に迎えに行く。もう半分家族みたいなものだから勝手に上がらせてもらうし何かあった時の為に鍵も貰っている。俺の信頼は厚い。
夢花の家では夢花が一人にならないように母親が一緒の部屋になり四六時中付き添う。朝ご飯とお弁当は父親担当みたいで今もエプロンをしてお弁当を詰めている。
その姿はテレビでお料理コーナーをするイケメン俳優のようだ。羨ましい。
「コーヒーでも飲んでると良いよ。」
「ありがとうございます。」
コーヒーをもらい椅子に座って寛いでいるとバタバタと夢花が部屋から出てきた。
「はやとお待たせ~!おはよう!!」
「ぉはよ。慌てんな。」
「夢花っ!危ないわっ!!」
夢花の後を追って夢花の母親も出てくる。
夢花とそっくりな上見た目が若すぎて姉妹にしか見えん…。この家族の顔面偏差値は俺の心に悪影響だわ。
「大丈夫だよ~。転んでもはやとが助けてくれるからっ!」
「それを大丈夫とは言わん。」
そんな事を言ってたらマジで夢花は足をもつれさせた。顔面から机の角に向かったので俺はそれを遮るように手を入れ夢花の顔を掴んで引き寄せた。
床に転がったけどセーフだな。
「うがっ。はやと酷いよ~!グギって、私の首がグギっていった!!」
「次回からは気をつけるわ。ほらっ、行くぞ。」
上半身を起こし抗議する夢花を立たせてテレビの時計を指さすと七時四十分と表示している。いつもこの家を出ている時間だ。
「わああああ!鞄!お弁当!スマホ!あとあと…。」
「夢花落ち着いて!お弁当は出来てるよ!」
「鞄とスマホはここよ!」
何とか予定より二分遅れて出発した。
まあ、いつもの電車は何事も無ければ乗れるかな。
まあ、何事も無いなんて事は無いよな。ホント…。
夢花を抱えて教室にギリギリ滑り込んだ俺、自分で褒めてやるよ。HR始まったけど息上がってそれどころじゃない。
夢花の家を出てから自転車が突っ込んで来たのを避けて、電車のホームで夢花がホームに落ちそうになったのを助けて、そのおかげで電車が遅延。
電車を降りたら夢花が階段から落ちたのを助けて、学校を目前にまた自転車が突っ込んで来て避けたら電柱に衝突したから無事か確認してと盛りだくさんだった。
いつもは二つくらい少ないから今日はサービスディか何かだったのか。とりあえずいつもより気が抜けない日になりそうだ。
「それでは、連絡は以上です。」
担任の話、全く聞いてなかった。
誰かに聞こう。夢花は当てにならん。
「渡辺~。担任なんか重要な事言ってた?」
前の席の渡辺の肩を突き聞くと振り返った渡辺は呆れた顔をしている。
渡辺は面倒見が良いから目の前の席で本当に助かる。角刈りと丸メガネのせいで…いや喋り方も含めてブサメン寄りだが俺はそんな渡辺が全力で大好きだ。
高嶺の花と称される如月が前だったら夢花と仲が良いという相乗効果により男子から闇討ちにあうに違いない。
「黒崎。僕という存在に必要性を出す為に熱血系男児気取りの担任を空気扱いなんてしなくていいんだよ。僕より下だなんて熱血系男児気取りの担任があんまりだ。」
「あんまりなのはその言われようだと思うがな。んで、何か言ってた?」
「そうだな。いつも通りパッションとは言っていたが特に気にするものは無かった。」
「ならいいな。」
担任の話を全部きちんと聞いてるやつってウチのクラス渡辺以外に誰がいるんだろ。夢花とかスマホ横にして何かしているから普通に聞いてなかっただろうし。
まあ、俺が言えた事でもないな。
「黒おは~。」