始まりは些細な事
宿屋の貸し会議室。長机に対面で座ると少し緊張してしまうのは慣れないからか…。兵士みたいな人達が部屋の内と外の扉に立っていて威圧感があるからか…。
「改めて、領主補佐官を勤めていますバター男爵家のクリームという。」
「私は聖人と申します。」
「奈那葉です。」
「はやとです。」
「……御三方はあまり似ていないようだ。どういった関係で?」
「同郷出身で共に旅をしています。バター様はお若く見えますが領主様の補佐官様とは素晴らしい才をお持ちなのですね。お勤めは長いのですか?」
「クリームで結構。補佐官としては五年程だ。」
何だろ、凄く大人な雰囲気がするな。奈那葉は背筋をのばして優等生モードだし聖人さんもいつもと違う。勉強になるな。
「ではクリーム様と呼ばせていただきます。お一人で赴かれているという事は領主様の信頼もお厚い事でしょう。その様な方にお声がけいただき光栄です。
早速ですがご事情を伺っても?」
「聖人殿達は街に来たばかりとの事だが、この街の様子はどうだろう。」
「そうですね…市場は栄えていましたし街は整備されて美しいです。街の人々は気さくで良い街だなとは思いますよ。…ただ、怪我人が多いのと、外から来る人が少ないのだなとも思いました。あと子供もあまり見ませんね。」
聖人さんの言う通り、ここまで子供とはあまりすれ違ってない。街の人達も手首に包帯を巻く人や擦り傷をつくってる人がずっと視界にいた。クリームさん美人なのに顔が怖くて目を合わせられん。
「素晴らしい眼を持っている。声をかけたのは間違いなかったようだ。
この街は今、9割の人間が過度の肥満体質。三年前まではまだ普通体型の者が多く、太っている者も多少は居たがそれでもふた回りは小さかった。原因となったのは芋餅だ。」
「芋餅…ですか?」
芋餅ってジャガイモ使ったおやつだよな。確かに美味いけど悩みの種になるほどかって言われると俺の感覚には無いな。
「芋餅自体は昔からあるものだった。きっかけは旅人が芋餅にチーズを乗せて食べた事だと聞いている。美食の街として名高かったクプンマの住人は衝撃を受けたそうだ。“何故、今まで芋餅に手を加えなかったんだ”と。」
「その割に市場に芋餅は無かったかと思いますが。」
「今はな。旅人が滞在した直後は何処もチーズを乗せた芋餅ばかりだったそうだ。そして一月後、クプンマの街で最高のオリジナルの芋餅を作ろうと団結した。今街で芋餅が売られていないのは完璧な芋餅が出来ていないからだ。
美食の街としてのプライドか恐ろしい執念で住人達は料理人以外も含め日々芋餅を研究し、月に一度一番出来の良いものはどれかと街の住人のみで品評会も開いている。
芋餅ばかり一日に数十個食べるのでぶくぶく太っていき今の状態だ。
太り過ぎにより身体の動きが悪くなり馬車や通行人、障害物とぶつかる事が多くなり怪我をするものが後を絶たない。出生率は下がり傾向、健康に懸念のある者は増加し数年後の労働者減少が問題視され、更には外部からの訪問者も減少している。
昨年の納税はギリギリだったが今年はこのままでは危ない。
領主様からダイエットの努力義務を課しているが効果がなく、今回ついに高カロリー食の禁止を言い渡す事とした。禁止物の中に芋餅もある。」
なるほど、大変。
なんてタイミングでこの街に来てしまったんだろう感しかないな。芋餅でここまでなるなんて正気じゃないだろ。でも今ならクリームさんにダイエット器具が買って貰えそう…。
「なるほど、事情は理解しました。クリーム様、高カロリー食禁止については暴動が起きる可能性があります。なので先ずは減らす事から始めませんか?」
「何か策が有るというのか。」
「はい、可能か確認したいので一日頂けないでしょうか。」
「明日の昼にまたこの部屋で。」
聖人さん何を考えてるんだろう。凄く考え込んでる。
とりあえず、今日は街の外でテント張って寝るしかなさそうだな…。




