夢の中から現実へ
私、如月 奈那葉はとても厳しい家庭で育てられた。
「奈那葉は将来私達とたくさんの人を助けるのよ!」
「俺達の娘なんだ、期待してるぞ。」
両親が医者だから私も医者を目指すように言われて小学生から家庭教師がついていた。学校以外で友達と遊んだ記憶は無いし三年生で学校以外で誘われる事も無くなって少し寂しかったな。
中学校は受験したけど落ちてしまって、それから親は更に厳しくなっていき嫌になった私は親に内緒で家から離れた高校を受験した。
「何故こんな馬鹿な事をしたんだ!!」
合格通知でバレて親とは大喧嘩になり何とか自由な高校生活を手に入れた。けど、家庭教師も両親との生活も消え一人暮らしをする事になった。
最低限のお金は振り込まれてくるけど入学後一切の連絡もない。面談すら来ないからもう一生会わないのかもしれない。でも後悔は無いわ。人形から人になれたから。
そうして過ごしていたら何故か異世界に行く事になった。二年程異世界で生活?何それ楽しそう。胸がドキドキする。
「初めまして、宜しくお願いします。」
降りたった場所は森だったから内心焦ったけれど同級生の黒崎君と大人の蒼井さんが居るからきっと大丈夫。
黒崎君の運動神経の良さは知ってるしね。
訂正。
聖人様、一生ついて行きます。
これはきっと恋…貴方の笑顔を見た瞬間、私の心には貴方が住み着きました。年の差、気にしません。妻子が有れど今は異世界で独身同然。
ここで私との愛を育んでもらって帰ったら奥様にご挨拶と私の存在を認めて貰えば良い。
私なんかじゃ正妻にはなれないからどうか愛人として…なんて浅ましい考えでいたから聖人さんからあんな言葉を……。
ずっと夢の中みたいにフワフワしてたけど急に現実に戻されたみたい。
最初に愛妻愛娘家って言われてたのに恋に浮かれてた。夢から現実に戻っても聖人さんの事が好きなのは変わらない、今更この恋を無かった事には出来ない。でも、聖人さんと離れるのは嫌……。
黒崎君…はやと君にも迷惑をかけてる自覚は有る。こんな時、どうすればいいんだろう…まわりの同級生達は友達に相談してたけど私には相談相手がいない。
それともはやと君、男の子だけど相談してみる?ちょっと保留。
思い出そう、同級生達の恋バナを。恋が上手くいかずに落ち込んだ子達はどう慰められていたっけ。“元気だして!”、“あんな男、●●ちゃんには釣り合わないよ。”なんて心に響かないんだろう……。
とりあえず、今はキャンピングカーに一人で引き籠らせてもらせて下さい。
「奈那葉ちゃん、コレだけは差し入れさせて。」
おにぎり…濡れタオル…。
メモ…?はやと君から?
<恋人は無理でも娘にはなれないか。>
今はそんなの無理…失恋したての女の子に対して無神経すぎる。
やっぱり相談相手にはやと君は無理。
おにぎり、塩っぱいな。
同級生達の恋バナを思い出していて実践できそうなのは、何かに打ち込む事と自分を磨く事かな。
聖人さんが頬を染めるようなイイ女、うん良い目標だと思う。
お帰り、如月 奈那葉。
夢から覚めた私ならキャンピングカーを出たらちゃんとできる。




