聖人の料理
僕は蒼井 聖人。
妻と娘をこよなく愛するただのサラリーマンだった。今は諸事情に巻き込まれて異世界に来た訳だけど、なんか独身時代に戻ったみたいな開放感があるんだよね。家族と離れてるからかな。
まあ、きっとそのせいだと思うんだ。
「た、大変申し訳ございませんでした…」
目の前には村長を筆頭に土下座してくる村の人々。何故こうなったのか理由は簡単。村に入った途端に襲ってきたからだね。
村の入口でキックボードを降りて村を見回すと誰も居なかったから廃村かと思ったんだけど、大きな声で呼びかけたらゾロゾロと鎌や哪吒を持った人達が出てきたんだ。
「歓迎しよう。金目の物だけだがね!全部置いて出ていくなら命ばかりは助けてやろう。」
「えっと…ここは普通の村ではないのですか?」
「ふんっ。運の悪い奴だ…ここはなぁ、盗賊の隠れ里だよ。」
「あ、そうなんですか。」
「分かったらサッサと金目の物を出しやがれっ!」
「それは…気兼ねなくいけそうですね。戦といきましょうか。」
はやと君達と別れる時に気づいたんだよね。料理って二種類の意味がある事に。
キッチンを出せば腹を満たす料理を、キッチンを出さなければ外敵を排除する戦ができる。という事でレッツ戦っ。
まずは危ない刃物を除去したいからキッチンハサミかな。
「な、なんだあのデカいハサミ…。あんなので戦う気か?てか何処から出した?!」
「いいから殺るぞっ!!」
あ~皆ちゃんと上に武器を上げながら来てくれるから助かるな。
(ジョキッ)
「「「「「「「「「はっ?」」」」」」」」」
(ジョキッ)
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
よしっ。次は肉を柔らかくする為に肉叩きかな。
「ぐはっ…。」
「い゛っ!痛っ…。」
「や、やめ…。」
味付けは塩コショウで。
「ア゛ア゛ア゛いでぇぇえ!!!」
「目、目がぁぁぁぁぁあ!!」
いよいよ着火。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛熱ぃぃぃぃぃぃ火ぃぃ!!!誰か消してくれぇぇえ!!!」
少し煩いかな。盗賊って名乗るのに根性が無さすぎるよね。まだ学生時代に絡んできた彼らの方が骨があったよ。
まっ、僕も人の親だし降参してるから鎮火してあげようかな。はやと君達が来た時にあまり酷い姿を見せるのは教育に悪いしね。
差し水。
こうした感じで土下座に至った盗賊達。どうしようかな。もう少し完全に心を折って危なそうな物を排除したらはやと君達を呼ぼう。
「もう盗賊、なんて名乗らないよね?」
綺麗に頷いてくれたから大丈夫かな。
「じゃあココはもう普通の村だよね。」
さっ。はやと君にLINESで連絡しよう。
「今から仲間を呼ぶけど、手を出したら分かってるよね?あ、僕と戦った事と盗賊だった事は内緒ね。」
よしよし。




