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7.使われなくなった紙幣

双子の兄弟、イースとキャットは宮殿のような廃墟に立ち入った。

そこには巨大な機械があり、たくさんの紙幣があった。

どうやらそこは、亡国の印刷局のようであった。

※1話で終わる短編です


 とある場所に、宮殿のような装飾をしていた立派な廃墟があった。


 二人の内一人の少年はその中で会った者を見て、目を輝かせていた。

 そこには巨大で複雑な機械があり、その周りには紙幣が多く散らばっていた。

 

「うわぁ~、すごい! お金がたくさんある!」

「キャット、あまり大事にされてる感じじゃないけどな。使い物にならないから拾うんじゃないぞ」


 目を輝かせていた双子の弟・キャットの興奮ぶりとは対照的に、兄のイースは、昔紙幣を印刷していたのだろう、大きく複雑な機械のほんの一部を見る。


「ふむ、噂通り……ここは印刷局だったんだな」


 ここは、二人が拠点にしていたクロス・ポートよりもずっと大きな都市の近郊に位置する場所にあった。

 しかしその都市は完全に放棄されており、定住者らしき者は全くと言っていいほどいなかった。

 

 イースは、前もって知っていた情報を思い出す。

 一昨日訪れていた都市を首都にしていた国が、かつてここにあった。

 蒸気災害で大地が砕けていく中、国という概念がほとんどなくなった今の世界で、ここも例外ではない。


 イースは紙幣を印刷する機械など、初めて目にしたものだった。

 かつては国や地域、もしくは複数のそれらが組んだ同盟ごとに通貨を決め、その流通量を厳格に決め、そして偽造の防止の為に高度な技術を使ってこんな機械を動かしていた。

 そのため、一枚の紙の為にいろんな工夫を施すためにたくさんの技術を使う。その結果巨大な機械が出来上がるのだろう。

 

 しかし、十中八九ここにあった国は、蒸気災害が早くから近辺で発生していたため、兄弟が生まれるより早くから放棄されてしまったようであった。

 

 この造幣局も、国の重要な施設であったことは言うまでもないが、その周辺の広い範囲も含めて国が成り立たなきゃどうしょうもないのだろう。

 

「ねえねえ、これ集めたら大金持ちになるかな?」

「だから取るんじゃないよ、キャット。このお金には紙屑どころか塵ほどの価値もないだろうからね」

「え、そうなの?」


 イースはそっと財布から取り出して、一枚の紙幣を見せた。

 

「あれ? イースってば、持ってるじゃん?」

「こんな紙屑、今朝いた町で大量に落ちてたのを見たんだよ。そばに大きな荷車があってな……」

「へえ……強盗さん?」

「どうだが……でも僕は一般住民だったんじゃないかなと思うよ。この辺の町が放棄される前に、物不足かなんかでとんでもない不況でも起きて、それくらいないと、パン一個も買えないくらいになってたんじゃないのかな。まあ、最終的にこれを印刷する原料もなくなってままならなくなったんだろうけどね」


 それに、とイースは付け加える。


「もし価値があったら、一昨日いた街で僕たちが『気絶させた』強盗達もここに集まるでしょ? あそこからそんなに離れてもないし。でもどうせ、仮にこの大きな機械を動かせたとしても、もはや誰も使わない通貨さ」

「でも、クロス・ポートにコレクターのおじさんいたよ?」

「あの人は特別だよ。確かに、何百年後かしたら、骨董品となって欲しがる人はいるかもだけどね:


 果たしてそのころには、人間なんて動物はいるのか。

 どこに行っても、人がまばらで、いても節操なく盗みや殺しも行う者ばかりな中、どうやってこの世界が復活できよう。


 そもそもそのころには、森にいる小鳥やリス、水場にいる魚やカメ、そして廃墟にいるネズミたちまでも生息しているのだろうか。

 イースはそんな未来が想像もつかない。

 これ以上地上が破壊されてしまえば、命が育める場所は存在し得るのだろうか。


 イースは、機械の端に落ちていた一枚の紙幣を見た。

 

 使われている様子はないのだが、埃被っており、暗くて分かりづらい者の変色も見受けられた。

 しかし、おそらくこの国では象徴的ないし偉業を達成していたのであろう、人物の肖像画がどこか遠くを見ていた。

 その横には、遠くから描かれたような、あの街の教会の絵があった。

 一昨日二人が訪れた大きな廃墟の中心に遭ったあの教会だろう。

 二人はどれほど重要なものか認識していなかったが、この亡国にとっては大事な場所だったことがうかがえる。

 

 もはやこの世界で流通している通貨はとても少ない。

 現在クロス・ポートで使われているものも、かつてその地で使われていた通貨ではなく、その隣の隣に会った工業大国の通貨だ。

 

 しかし、硬貨にも紙幣にも、国の存亡に関わるほどの価値の激しい上下は起こることはあれど、その国の象徴的なものが印字されることが多い。

 

 放浪するまで、あまり気にしたことがなかったが、こうして巡っていくとゴミのように紙幣や硬貨が落ちているものを見かけ、たとえそれらの価値が一枚の画用紙に届かないほどになっても、イースも興味をもつことがあった。

 この肖像画に書かれている人物が誰なのかは分からない。

 しかし、おそらくこのあたりにあった国で尊敬されていたか、もしくは畏怖されていた人物なのだろう。


 なるほど。

 キャットが言っていたように、クロス・ポートには、あらゆる亡国のコインや紙幣を集める男がいた。

 もはやこれらに「通貨としての価値」はないと言ったが、ある意味なくなった国が遺したものとも言えよう。

 彼は言っていた。

 現役の紙幣と硬貨の価値は宝にもゴミ屑にもなるかもしれない。だが亡国のものには、時計が止まったその国の歴史と文化が詰まっているのだと。

 

「さて……キャット、そろそろ行くか」

「え? もう行くの?」

「これ以上いてもしょうがなくないか?」

「うーん……」


 キャットはじっと機械を見て、そしてイースの表情を見つめた。

 

「一枚くらい持ってても良くない?」

「……別に持っててもしょうがないと思うけどな」

「えへへ、あのおじさんにプレゼントしようかなって」

「うーん、ここにあった国、それなりの大国だったし持ってるんじゃないかな。知らないけど」


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