行き過ぎた冒険
──俺の名はアレン・ゲイル。
悪虐なる魔王を討伐する使命を背負った、『勇者』の称号を持つ剣士だ。
「お前が魔王か」
「ああ……その通りだが?」
邪悪な気配を放つ魔王に、俺は物怖じせず話しかける。
そう──ここは魔王城の最深部。
世界の命運を賭けた最終決戦、その時である。
「……俺と勝負しろ、魔王」
「良いだろう。その程度の実力で、この俺に勝てるはずもないがな」
緊張感を緩めない俺とは対照的に、魔王の表情には余裕があるように思える。
──大丈夫だ。
俺は今まで、多くの困難を乗り越えてきた。
頼れる仲間達もいる。
「恐れるものなんざ、もう何もねぇ──!!」
俺は仲間達と共に、魔王めがけて走り出した。
◇◇◇
ブチッ、とコードが切断される音が鳴り、ベッドに横たわる少年は気だるそうに身を起こした。
「チッ……このタイミングかよ」
少年は頭部に付けられた装置を外し、部屋の端に座っている人物の元へ歩み寄る。
「──おい、今日の飯は」
「……そこの台の上」
──その人物は、少年の実の母親であった。
母親は少しの間を置いて、箸を動かす少年に話しかける。
「ねえ、そろそろ現実を──」
「断るって何度も言ったろ。俺が生きたい世界は、ここじゃねえ。ここは悪夢だ。空想の世界なんだよ」
早々と夕食を食べ終えた少年は、母親の言葉など耳も傾けずに、再び装置を付け直した。
「──何で、こうなっちゃったのかしらね」
掠れるような母親の言葉は、別世界へと旅立った少年の脳に届くはずもなかった。
3作目の投稿です。
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