8話 明暗〈サンディ視点〉
予感は的中した。
最初、エイミー様に収穫の仕方を教えていた男が近付いてきて話しかけてきた。
「おいおい、サンディ。何エイミー様を泣かせてるんだよ」
「いや! 別に私は何も泣かせることは言ってないですよ!」
「だが、現にエイミー様が泣いているじゃないか」
その男の言葉が聞こえたのか、やじ馬が集まってきた。
「どうしてエイミー様が泣いているんだ?」
「まさかサンディが泣かせたのか! そう言えば昔……」
――違う! どうしてこんなことになるの!
昔の記憶が蘇り、私がパニックになりかけていたところに、エイミー様が鈴の鳴るような声で話し出した。
「サンディは何も悪くないの! 私が言葉選びを間違えて、サンディを怒らせてしまっただけで……、だからサンディのことは責めないで! 私が悪いの!」
そんなエイミー様の発言を聞き、野次馬の男が口々に発言しだした。
「エイミー様、別にそんなサンディに気を遣わなくてもいいですよ」
「サンディは怒りっぽい性格なんで、気にしなくても良いですよ」
そんな言葉を聞き、エイミー様はまたも発言を続けた。
「いいえ! 私が悪いんです。褒めるつもりで言ったんだけど、女の子に力持ちなんて言ってしまったから、サンディが怒るのも無理ないわ!」
――力持ちであるに越したことは無いし、力持ちと言われたことに対しては別に怒っていないわ!
私がイラついているのは他の部分で……。
そんな風に思っていると、ある男の声が聞こえた。
カイだった。
「どうしたんですか?」
そう問われた野次馬の男たちは、先程の出来事を早速話を変えて説明し始めた。
そして、聞き終えたカイが呆れたような表情になり、深いため息の後、話し出した。
「サンディ……、またか? もう18だろ? そろそろいい加減にしろよ。な?」
――は? 何が「な?」よ!
何も知らないくせに!
私はカイに対する怒りが込み上げてきたため、カイに言い返した。
「そっちがいい加減にしなさいよ」
そう言うと、カイは戸惑った顔になりながらも、ムッとした顔になって言い返してきた。
「お前がエイミー様に嫉妬していることは知っているんだ。お前にはお前の良さがあるんだから、もっと心の余裕を持てよ。力持ちなところとか、な? 図星だからって怒ることないだろう?」
私は怒りがこみ上げすぎて、もう一度言い返そうとしたところ、近くで作業をしていた2人の女性が会話に参戦してきた。
「サンディはエイミー様に怒っていませんよ。ずっと近くで会話が聞こえていましたが、サンディは説明していただけです」
「そうですよ! 何なら、収穫のコツを教えてあげようとしていたところ、エイミー様が突然お泣きに……」
――敵ばかりと思っていたけれど、ちゃんと聞いてくれている人もいたのね!
そう思って少しだけ安心しかけたところ、男性陣も黙っていなかった。
「お前たちも嫉妬か?」
「ただの説明で、急にエイミー様が泣き出すはずがないだろう」
「女って怖いな~」
そんな声が聞こえ始め、私や参戦してくれた女性たちも怒りの表情を隠しきれないという状況になったところで、エイミー様が叫んだ。
「みんな! 私のために喧嘩しないで! 私が全部悪いの!」
――ええ、その通り。あなたが全部悪いのよ!
それに、あなたのために喧嘩したわけじゃないわ。
何を勘違いしているの?
そう思うと、ますます怒りが湧いてきたが、領主の娘にそんなことを言えるはずもなく、言うのは何とか堪えた。
その時、騒ぎを聞きつけて農場長がやってきて、エイミー様は帰っていた。
すると、先程私を責めていた男たちは何事も無かったかのように持ち場に帰って行った。
もちろん、カイもだ。
私は独り取り残されたまま放心状態に陥っていたところ、先程の2人の女性が話しかけてきた。
2人とも20代半ばの二児の母だった。
「サンディ、さっきは力になれなくてごめんね」
「いえ! そんな……! 先ほど味方になってくれて、どれほど心が救われたか……」
「実は、私たちあなたのことを少し勘違いしていたみたい。5年前の噂で……。あなたのご両親もサンディが悪いと言っていたから。でも、今日のを見て確信したわ。サンディは悪いことなんてしていないわよね?」
ずっと信じてもらえないと思い、また言ったとしても怒られると思い言えなかったことをやっと理解してくれる人が現れたことで、私は今までの出来事がわっと蘇り、周りの目も気にせず大泣きしてしまった。
私が泣いている間、ごめんね、と言いながら寄り添ってくれた2人に、私は5年前の出来事を話した。
「全然話が違うじゃない!」
「サンディもシンも悪くないのに、私たちったら勘違いしてあなたたちと距離を置いてしまっていたわ。今まで寂しかったでしょう? 本当にごめんなさい」
「私たちも今日の話は仲の良い人たちにきちんと忠告しておくわ!」
そう言って、2人とはその日別れた。
そして、家に帰ってから、私はまたも両親に今日の出来事を怒られた。
次の日、農場長にも怒られた。
しかし、自分の味方をしてくれる人が2人だけでも増えたことが唯一の救いだった。
そのうえ、カイから話を聞いたのか私が両親に怒られた後、シンが謝りに来て、慰めの言葉をかけてくれた。
今回は味方が初めて出来たが、あの5年前の出来事以来、私が嫌な思いをする度に、唯一私を責めずに親身になってくれたのはシンだった。
私は、カイと顔が似ているという葛藤があったが、いつの間にかシンのことが好きになっていた。
ただ、私は領地をいつか出て行く身であることや、シンは罪悪感で私に親身になってくれている様子のため、好きという気持ちを心の奥底に閉じ込めた。
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