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7話 再会〈サンディ視点〉

エイミー様は12歳になり、あの日から5年が経った。

気付けば私は18歳だった。


5年前、領主様が家まで謝りに来た。

私は領主様がコールデン子爵としてではなく、エイミー様の父親として謝りに来たようだったため、救いを感じていた。


しかし、周りの反応は違った。


領主様が帰った後、何故か私は両親に怒られた。


怒られた私は飛び出すように家を出て行き途方に暮れていたが、そうだ、昨日のお礼を言いに行こうと思い、シンの家まで行った。

すると、顔を腫らしたシンが家から出てきた。


私が何事かと話を聞いたところ、カイから話を聞いた2人の両親はシンに対して大激怒し、シンに躾だと言ってシンのことを殴ったとのことだった。


その瞬間、ああ、私たちはこの領地にいる限り、正しいことをしたとしても悪者にされるんだと学んだ。


ただ、それだけでは終わらなかった。

あの日あった出来事を、カイが領地の人に話したのだ。

そして、その話は背びれ尾びれを付けて、あっという間に領地中に広がっていった。


そしてこの話に関し、私とシンが悪者というのが領地民の中での共通認識となった。

私と年齢が近かったがゆえに、ただ私を守る発言をしてくれたシンが悪者にされている現状に対し、底知れぬ罪悪感が襲ってきた。


このことに関して謝ると、シンはサンディは何も悪くないから謝る必要は無い、気にするなと言ってくれたが、とてもそうは思えなかった。


もうここにはいられない、だけど今は領地を出て行くことのできる年齢ではない。

この葛藤に苛まれながら、この5年間を過ごした。


そして、私はこの5年の間に、この領地を出て行くことを決意した。


ただ、この5年間中ずっと村八分状態になるということは、残る両親のことも考えると何が何でも避けたかったため、私はこの領地で最も力を入れている農作業に率先して取り組んだ。


すると、時間は薬と言うのは本当で、5年の歳月が経った頃には、私もシンも当時の年齢的な問題もあり見直されたのか、エイミー様の件で悪者扱いされたり、避けられたりすることはほとんど無くなった。


そのため、もしかしたら領地を出て行かなくても、ひっそりと何事も無く過ごせるかもしれないと思い始めていた。

しかし事態は変わった。

エイミー様が農作業を手伝ってみたいと言い始めたのだ。


流石に最初、農場長も貴族の令嬢が農作業を手伝うということに反対していた。

しかし、エイミー様が領主の娘という立場だからこそ、その立場に驕り高ぶることなく、領地民の目線を知らなければならないと思っているため、是非手伝いをさせてくれと言ったらしく、感動して気を良くした農場長はエイミー様の手伝いを了承した。


そして、とうとうエイミー様が手伝いに来た。


「皆さん、今日は宜しくお願いします。分からないこともたくさんありますが、頑張りますので色々なことを教えてください!」


そう言うと、エイミー様は極上の笑みを浮かべた。

その笑顔1つで、その場にいた皆は相当浮ついている様だった。

そして、作業が始まった。


「え~、どうやったら抜けるんですか~?」

「根元を掴んで、垂直に引き上げたら抜きやすいですよ」

「すご~い!」


横にいる男はエイミー様に教えながらも褒めてもらい、鼻の下を伸ばして笑っている。


――そんなに力を入れなくても抜けるし、収穫も簡単な野菜なのに……。

私は慣れてしまったから最初の感覚を忘れてしまったけれど、初めてやるときは抜き辛かったかしら?


そんなことを思いながら収穫をしていると、隣でキャッキャウフフと話していたエイミー様が不意打ちで話しかけてきた。


「あの、サンディ……だよね?」

「……はい、そうです」


私がサンディであることには変わらないから変な嘘をつく必要は無かったため、戸惑いながらも素直にエイミー様の質問に答えた。


すると、エイミー様が笑顔になって話し出した。


「やっぱりサンディだったのね! 歳をとってるから一瞬誰かと思ったわ! ずっとずっと会いたかったのよ!」


――いやいや、歳をとってるって言葉選びが酷いんじゃない?

私まだ18歳よ?

貴族の令嬢でない私でさえ、失礼だって分かるわ!


私は大きな声でそう言われ、一瞬怒りが湧いたが、それと同時に恥ずかしさが湧き、周囲の視線が気になった。

そのため、周りをちらりと見ると、気にせず自分の作業を続けている者が多かったが、近くで作業をしていた何人かの人は驚いた顔でエイミー様のことを見ていた。


――やっぱり今の言い方は驚くわよね! 

大丈夫、私が気にし過ぎなだけじゃないわ。

ただ、相手は12歳よ。

気にしたら負け。


そう思いながら、気持ちをごまかすように笑顔を作りエイミー様に言葉を返した。


「そのように言ってもらえて嬉しいです」

「サンディに会いたいなんて、ずっと一緒に過ごしていたんだから当たり前じゃない! ところで……、さっきから横で見ていたんだけど、サンディってすっごく力持ちなのね! 普通の女の子なら絶対に抜けないくらい力がいる作業のはずなのに、さっきからすごい速さで抜いているからびっくりしたわ! そんなに力持ち過ぎたら、サンディの方が頼りになり過ぎて、男の人は逃げちゃうね!」


――この子は満面の笑顔でなんてことを言うの!?

力があって何が悪いの!?

男の人が逃げるという発言も、意味が分からないわ!

それに、コツさえ掴めば収穫の時、そんなに力は要らない野菜なのに……。

エイミー様の言っていることが正しければ、ここで働いたり手伝っている女性は皆、該当者よ。

エイミー様、女性陣を敵に回したわね……。

けど、流石に今の言い方は少し訂正しておかないと。


「エイミー様、私はエイミー様から見ればとっっっても力持ちかもしれませんが、普通の女の子ですよ。それに、ここにいる女性は皆この野菜の収穫が出来るんです。けど、男の人たちは逃げていませんよ。っと、話は戻りますが、実はこの野菜を抜くにはコツがあって……」


気になった部分の情報を少し訂正し、野菜を抜くコツを説明しようと思ったところ、突然エイミー様が泣き出した。


――え!? 何で!?


私は突然泣き出したエイミー様を見て戸惑いと同時に、嫌な予感を感じた。


お読み下さりありがとうございます(*^^*)

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― 新着の感想 ―
いちいち相手を踏みつけにしないと喋れないのか、こいつは。
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