6話 分かれ道3〈エイミー父視点〉
「――ということが本日ありました」
エイミーの世話係をしている侍女から夜に話があると言われ夫婦で侍女の話を聞いた。
私は侍女から聞いた説明に耳を疑った。
「エイミーがサンディにそのようなことを申したのか!?」
「なんてこと……!」
妻も驚いていたが無理もない。
私もエイミーがそんなことを言うだなんて信じられなかった。
だが、侍女の話はとても嘘とは思えない。
そのため、心配になり私は問うた。
「サンディは大丈夫か?」
すると、侍女は気まずそうに答えた。
「いくら幼いエイミー様の言葉とはいえ、サンディはその発言にショックを受けています。なので、しばらくエイミー様とサンディの接触は避けた方が良いかと思います」
――全くもってその通りだ。
妻と行ったら目立ってしまうから妻とともには行けないが、、今回は私だけでもサンディの家に謝りに行かねば。
今までエイミーに付き合っていてくれたのに、本当に嫌な思いをさせてしまった……。
「明日サンディの家まで謝りに行く。サンディに嫌な思いをさせたのは今回で2回目だ。さすがに手紙という訳にはいかない。しかし、それはエイミーにも話を聞いてからだ。朝、エイミーを連れてきてくれ」
「承知致しました。……あと、その、言いづらいのですが1つ、エイミー様のことで……」
「遠慮せず言ってくれ」
「ええ! 1つだけでなく、何かあるのならこの際全て些細なものまで言ってちょうだい!」
妻とそう声をかけると、侍女は話した。
「私がこんなことを言える立場ではないと思って言おうか言うまいか迷っていたのですが、今回の件でエイミー様は幼さもあってか罪悪感も薄く、本気で理解して反省しているとは思えないのです」
「確かに……否定できないな。よく言ってくれた。明日そのことについてもエイミーに私からきちんと話をするよ。他にも何か気になることはないか?」
「はい、今のところございません。」
「そうか、今日は疲れただろう。もう休みなさい」
「はい、そのようにさせていただきます。それでは、よろしくお願い致します」
こうして朝、これからの話を何も知らないであろう笑顔のエイミーが私と妻の前にやってきた。
「おとーさま! おかーさま! おはようございます! お話ってなんですか?」
「エイミー、ちょっとこっちにおいで」
ソファーに座っていた私は、隣に座るようエイミーを促した。
「エイミー、お父様は今からとても大事な話をするよ。だからよく話を聞いて、お父様が聞いたことにはきちんと答えてくれ。分かったかい?」
「はい! なんのお話〜?」
「昨日サンディを傷付けてしまうことを言ったね?」
そう問うと、エイミーはハッとした顔をして、俯き気味にボソリと言った。
「……言ったらしいですけど、謝りましたよ?」
そう言ったかと思うと、急に顔をバッと上げ、矢継ぎ早に話し出した。
「けどね、わざとじゃないし、本当に思ったことを言っただけなのよ? 傷付けるつもりなんて……。 それに、謝ったしもう終わったことよ? もう良いでしょう? 思い出したら楽しくなくなるよ? それよりもお父様、一緒にお出かけしましょう!」
――全然気にも止めてないみたいだ。
エイミーのように言った側は覚えてなくても、サンディは言われた側だからすぐには忘れられないだろうし、忘れるとも限らない。
それに、本気で思っていたからこそまた繰り返してしまうかもしれない。
エイミーには、そのことも話さねば。
「お父様は今のエイミーと、一緒に出かけることは出来ない。よく聞くんだ。エイミー、確かにサンディに謝ったと聞いたよ。だけどね、他の誰でもないエイミーが、この出来事をもう終わったこととして忘れてはいけない。そうしないと、同じことを繰り返してしまうことになるからね」
そういうと、エイミーはシュンとして口を開いた。
「許してもらったのにどうしてダメなの? それにわざとじゃないのに……」
「昨日、エイミーがサンディにしてしまったように、わざとではないが悪いことをしてしまうこともあるだろう。人間は間違う生き物だ。だから、昨日エイミーが間違えてしまったことをいつまでもお父様が責めることは無い。許すか許さないかは、サンディが決めることだからだ。だが、その後のエイミーのこの出来事に対する態度を、お父様は良くないと思っている。貴族以前に人としてだ。だからこうして話をしているんだ」
すると、エイミーは心底不思議そうな顔をして話しかけてきた。
「何が良くないの?」
――まだ幼い子に伝えるには、難しい話だっただろうか?
やはり限界があるのか?
「わざとじゃなくても許されないこともある。そんな中、サンディは許してくれたんだ。それに対して、許されたからもう良いと忘れようとしたり、思い出したら楽しくなくなると言ったりすることは、サンディに対して失礼で良くないことだ。そんな調子では、きっといつか同じことを繰り返してしまうだろう。だから、謝ったから忘れるのではなく、同じことを繰り返さない教訓にしてほしい。エイミー、お父様は貴族としてはもちろんのこと、人としてわざとではなくても、人のことを傷付けてしまうことをエイミーに繰り返してほしくないんだ」
そういうと、エイミーが問うてきた。
「教訓って何ですか?」
すると横に座っていた妻が説明した。
「わざとではなくとも、昨日のエイミーの言葉は人を傷付けるって分かったでしょう?」
「はい……」
「ということは、昨日サンディに言ったようなことを、もし思っていても言わなかったら、人を傷付けることにはならないと分かったわよね?」
「はい」
「つまり、人を傷付けない方法をエイミーは知ったでしょう? 人を傷付ける人は周りの人はどんな人だと思うかしら?」
「……悪い人?」
「ええ、悪い人よね。では、人を傷付けない方法を知って、傷付けない行動をしたら悪い人はどんな人になる?」
「良い人?」
「そうよ。エイミーは良い人になる方法を知ったの。人から良い人って思われることは、自分のためにもなるの。そんなエイミーのためになる、素晴らしいことを教えてもらったの。この教えてもらったことを教訓と言うのよ」
こう妻に言われ、エイミーは嬉しそうに言った。
「じゃあ、私は良い人になれるのですか?」
「ええ。この教訓を活かすことが出来ればね」
そこまで言うと、妻はエイミーに現実を知らせるため、少し厳しめのことを言った。
「ただ、今回の教訓を得るとき、サンディというエイミーが傷付けてしまった人が出たわ。だからこそ、優しく許してくれたサンディには感謝だけでなく、悪いことをしてしまったという気持ちを忘れないで。そして、サンディのためにも、昨日のようなことで人を傷付けないでちょうだい。分かったかしら?」
「はい!」
こうして、エイミーに一応話をすることは出来た。
その後、私はサンディの家に行きサンディに謝った。
サンディはしばらく娘と会わないということが決まった。
その数日後、突然ではあったが、報告してきた例の侍女は結婚することになったと言い、突然コールデン家を去った。
こうして月日は流れ、エイミーは12歳になった。
ここまでお読み下さりありがとうございます(*^^*)
発言の所々にある、何とも言えないもどかしさ、違和感が伝われば幸いです。