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3話 濡れ衣2〈サンディ視点〉

 家に帰り着いてすぐ、泣きながら帰って来た私を見た両親に心配された。


 しかし、私の後を追うように、先程見送りの際出てきた侍女様が家まで来たため、両親に説明をする間もなく、私は両親と侍女様のいない別の部屋に行った。




 その間に侍女様と両親が話をしていたが、一段落着いたのか、侍女様が私にも話をしに来た。




「サンディ。さっきはごめんなさい。実はお嬢様が嘘をついていて、あなたは悪くないって分かっていたの」


「っ! じゃあ何で私のことを怒ったんですか!?」


「……あなたはただの平民で、エイミー様は貴族だからよ」


「身分がそんなに大事なんですか!? 間違ったことをしていたら正してあげるのが、あなたの仕事ではないのですか!? そこに貴族と平民は関係ないと思います」


「……全くもってその通りよ。けれど、お嬢様は身分だけではない、領地の皆から愛される存在なの。そんなお嬢様を責めたらどうなるか分かるでしょ?」


「私には分かりません! 責めると教えを説くことは違います! エイミー様の発言が嘘と分かりながら、私を怒るなんて間違っています!」






 そう答えると、侍女様は悲しそうな顔をして言った。




「今はまだ5歳の子どもだから良いけれど、お嬢様が成長すればするほど、お嬢様の言葉一つであなたやあなたの家族の人生が変わるかもしれないのよ? もしかしたら最悪、村八分になってしまうかもしれないわ。だから、今回のことを丸く収めるために、お嬢様の前であなたを怒ったら、お嬢様があなたに対する怒りを忘れると――」


「私はエイミー様より年上だけど、私だってまだ子供なんだから! もう聞きたくない! 帰ってください!」






 私の心の叫びを聞き、侍女は気まずそうな顔をしながら言った。




「元はと言えば、私が寝ていなかったら起こらなかった出来事よ。サンディ、本当にごめんなさい。この出来事は私の責任だから、今日の出来事に関して、領主様には嘘偽りなく、事実そのままをお伝えしておくわ」




 そう言い残し、侍女様は帰って行った。






 その後すぐ、両親に今日の理不尽な出来事に関して、慰めてもらおうと思い私は両親のところに行って話しかけた。




「お父さん! お母さん! 今日のことだけど、私何も悪いことしてないのよ!」




 そう言葉にすると、両親の前だからか引っ込んでいたはずの涙が出てきた。


 すると、両親は泣いている私を慰めるように抱きしめながらこう言った。




「侍女様から聞いたわ。本当に今日のことは辛かったわね。けれど、あんなにも可愛らしい5歳の子がそんなことをするだなんて、あなた本当に何もしてないの?」




 私は愕然とした。


 ただ慰めてもらいたいだけだった。


 そのため、そんなのことを言われるとは思っていなかった私は酷くショックを受けた。




 私は母の言葉が信じられず、母と一緒に私を抱きしめる父を見た。


 すると父が言った。




「サンディ、理不尽な思いをして怒った気持ちはよく分かる。だけど、エイミー様はこの領地の天使のような存在なんだよ? そんな子と一緒にいられるサンディはみんなから羨ましがられるような存在なんだから、そんなことでいちいち怒ったらダメだよ。それに相手は5歳だよ? 我慢するんだ。分かったかい?」






 言うことを聞かないわがままな子を諭すかの如く、優しい声音で話すお父様のその言葉は、私の心を凍りつかせるには十分だった。




 そしてこのとき初めて、私は蟻地獄から既に這い出せなくなっている事に気が付いた。




 しかし、気付くには遅すぎた。


 こうして、私は11歳で初めて絶望感を味わった。




 この次の日、領主様から手紙が届いた








 サンディ嬢




 昨日は、娘の嘘で君の心を傷付けてしまいすまなかった。


 私、そして妻からもこのことを謝らせてくれ。


 本当に申し訳ないことをした。




 このことを聞いて、すぐに娘を叱ったよ。


 こんな出来事があって嫌かもしれないし、娘の友達と言うには難しい年の差かもしれないが、サンディさえ良ければ今までのように定期的に会ってもらえないだろうか?




 だが、その話をする前に私と妻、そしてエイミーで直接会って謝罪したい。


 そのため、明日我が家に来てくれないかい?


 そのうえで、今後も会うか判断してもらいたい。


 もちろん無理強いはしないよ。


 嫌なら断ってくれても良いから、明日一度来てもらいたい。


 本来なら我々がサンディの家に赴くべきだが、他の領地民からの視線を考えると、我々がサンディの家に赴くことができないことを許してもらいたい。




 待っているよ。










 この手紙を見て、私は驚いた。


 いくら距離感が近いとはいえ領主様からの手紙は初めてなうえ、周りが我慢を強いる中、唯一謝罪してくれたからだ。


 また、エイミー様を叱ったと書かれている。




――一度だけでも良いのなら、行ってみようかな?




 そう思った私は、次の日領主家を訪ねた。




 すると、領主様も夫人も出てきて、ただの平民でしかない子どもの私に謝ってくれた。


 そして、何より驚いたのがエイミー様だ。




「サンディ……、クッキーが欲しかったからって嘘ついてごめんね」




 私はエイミー様がこうも素直に謝るとは思っていなかったため、驚きを隠せなかった。


 しかしそんな私の驚きを他所に、エイミー様の言葉を聞いた夫人が、エイミー様に声をかけた。




「他にも言わなければならないことがあるでしょう?」




 するとエイミー様は涙を流しながら言った。




「サンディの分のクッキーをくれてありがとう。クッキーくれたのに、もっとクッキーが欲しかったからって、いじわるしてごめんね」




 このエイミー様の言葉を聞いたあと、領主様が言った。




「サンディ、改めてすまなかった。エイミーが悪い事をしたのはもちろんだが、侍女が寝ていなかったらこんなことにはならなかっただろう。これに関しては、完全に私の監督不行き届きだった。本当にすまないことをした。侍女には厳しく注意しておいたよ。彼女もこの件に関して深く反省しているようだった。……こんなことがあって嫌だと思うなら断ってくれても構わない。だが、もし良ければこれからもまた来てくれないかい?」






 私はエイミー様が謝ってくれたこと、冷静に考えるとエイミー様は5歳なこと、誰よりも領主様と夫人が私のこのモヤモヤした気持ちに真摯に向き合ってくれたことから、また会うことに決めた




 すると、領主たちは嬉しそうにありがとうと何度も言ってくれた。






 今思えば、11歳の判断力なんてその場の感情でいくらでもブレが生じるから、この判断をしてしまったことは仕方なかったとしか言いようがない。






 そして、その日からエイミー様はクッキー事件のことは嘘だったのかと言うほど良い子になり、私はすっかり5歳のあの日のエイミー様を忘れかけていた。




 そして、6歳のエイミー様は5歳の頃とは違い、クッキーを奪うどころか半分こするくらいになり、本当に優しい子になった。




 そんななか、私が13歳でエイミー様が7歳になった頃、領主様がそろそろ家の外でサンディの次に年の近い人かつ、男の子とも交流してみようと言い始めた。




 女性だけでなく、父親以外の男性とも話せるような社交性を身につけさせるという目的があったようだ。




 そして、まずは私の1つ年上の幼馴染のシンとカイ、そして私とエイミー様で会うことになった。



お読み下さりありがとうございます<(_ _*)>

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