17話 最悪な出会い〈エイミー視点〉
「リディアは死んだ?」
そう確かめることが、私の独房での暮らしの日課になっていた。聞いたところで、死んだという返事が返ってくることは無いだろうとは思う。
だが、もし仮に死んだという答えが返ってきたら、この暗くて暇しかない無い独房生活でも最高潮にハッピーな気持ちになれるに違いない。
死んだという答えが返ってきたらラッキーだな、そんな感覚で、食事を持ってくる人にリディアの死を訊ねていた。
――何で私がこんな目に遭わされているの……?
そんな疑問が毎日湧いてくる。考える暇が無限にあるせいだ……。
だからなぜ私がここに来ることになってしまったのかについて、過去のことを振り返った。
王女宮の風紀を乱したこと、職務怠慢、横領、こんなことをしたって言われたけれど、私は悪いことをしようと思ってこれらをやったわけじゃない。
皆が教えてくれないから分からないままの仕事があった。だから出来る仕事はしていたのに、仕事中に出会った知り合いとちょっとお茶しただけで職務怠慢なんて、どれだけ厳しいの?
それに、パトリシア様の投資のためにあげた飴も横領だなんて、横暴過ぎだわ!
しかも、私はずっと素直な子になれって言われて育ったから、飴を配った理由を聞かれて素直に答えたら侮辱とか不敬とか意味分かんない……!
パトリシア様がデビュタントもしてない年齢だから、足を引っ張られて迷惑してたくらいなのに……。
飴でも配らなければ、パトリシア様に連動して私の株が上がらないじゃない。私は良かれと思ってしただけなのに、恩を仇で返すなんて酷すぎる。
極めつけは、王女宮の風紀を乱したと言われたこと。これが一番納得できない。
リディアも王女宮の侍女も、みんなみんな自分が男性の心を掴めて無かっただけなのに、全部人のせいにするなんて最低だし卑怯だ。
独房に入れられてから侍女長が来たけど、あの人の話しは全部私が悪者になっていた。
侍女の悪口を王女宮騎士団員に言っていたって怒られた。だけど、悪口じゃなくて本当のことを言っただけ。みんな私に何も教えてくれないし、出来ても全然褒めてくれない。
そのうえ、分からないことは無いかってテストをしてきた。それに楽しく仕事をしたいから話しかけたのに、仕事中は黙れって言ったり、私にだけ業務的な話し方をしたりする人が多かった。
こんなのただの嫌がらせに差別じゃない。だから、されたことをただ騎士団の人たちにそのまま言っただけ。確かに物覚えがよく無かった自分も悪いと思ったから、そのことも隠さずに騎士団の人たちには伝えた。
私はその人からされたショックなことじゃなくて、自分自身にも問題があると思ったことはちゃんと伝えたのに、悪者になるなんておかしい。それに、私はただ励まされたいから王女宮の騎士団の人に話をしたわけではない。
王女宮の騎士団員の男性は侍女に優しい人が多い。だから、そんな優しい人たちが騙されて、意地悪をしてくる女性たちとお付き合いや結婚をして、後になって後悔してほしくなかった。
好きな人がいない人なら、今後の参考程度にという気持ちで話しをした。だけど、侍女に狙われている人を知っていたら、その人にはきちんとその人がどんな人なのかを教えてあげた。
逆に騎士団の人が好意を持っている侍女が居たら、その侍女の情報を包み隠さず教えてあげた。私に特別意地悪をしない人はちゃんと良い人だって教えたし、私に特に意地悪をしてくる人のことはきちんと本性を伝えた。
――良いことをしても、正義が必ず勝つことが無いんてあんまりだわ……。
自分の問題に向き合わずに、みんなで私を悪者にするなんて……。
だけど、何よりもずば抜けて最悪なのはリディアだ。あの女は私のすべてを奪う元凶だった。
私は家計のために、領地のためを思って出稼ぎに来たのに、あの女のせいで職を失い、お父様とお母様は領地を奪われた。みんなから愛された私の思い出の地を、あの女は根こそぎ奪っていった。
――どうして私がこんな目に合わされているのだろうか……。
全部リディアのせいよ。許せない、許せない、許せない、許せない……!!!!!!
最初の悪夢はあの女と初めて会った日だった。
◇ ◇ ◇
私は出稼ぎのために城に向かっている道中、王子様のような彼に出会った。そして、職場が一緒になりこれはきっと運命だと心が躍った。
そしてある日、仕事が休みだから何となく城下を歩いていると、最近気に入っている可愛らしいカフェの中にいるその人を見つけた。
――ロジェ様だわ……!
何でこんな可愛らしい店の中にいるのかしら!?
こんな場所で会うなんて、運命だ。もう彼からは運命しか感じない。でも、近付いたらロジェ様以外の人物が目に入った。
――ロジェ様ったら女の人と一緒にいる……。
どうして?
そう思いながらも、せっかく会えたこの機会を無駄にするわけにはいかないと思い、店内に入ってロジェ様に声をかけた。
「あ! ロジェ様、こんなところで会うなんて偶然ですね!」
そう言うと、ロジェ様はすぐに私だと気付き立ち上がって出迎えてくれた。
「やあ! エイミー、君とここで会えるとは……! 奇遇だね。今日は仕事が休みなのか?」
その通りだと答えながらも、視界の端に映るロジェ様と一緒にいた女性が気になった。でも、ロジェ様と一緒にいる女の人の顔を見たくなくて、顔は見ないようにしていた。誰か知りたくなったということもある。
それよりも私が見るべきはロジェ様だ。だって、ロジェ様は私のことを見ているから。
――ロジェ様にと女性がいるから焦ったけど、ロジェ様は私の方を優先してくれたわ!
そう思い、嬉しくなってロジェ様に告げた。
「お休みの日にロジェ様に会えて、とっても嬉しいです! 他の人ならまだしも、ロジェ様と会うと知っていたら、もっとかわいい服を着てくるんだったわ」
「僕も会えて嬉しいよ。それにどの服を着ていても、エイミーはかわいいよ」
ロジェ様は、会うたび大抵1回はかわいいという言葉をかけてくれる。それをこの女性の前でも言ったってことは、私とロジェ様の方がずっと深い仲ってこと。だから、別にいちいち挨拶しなくてもいいわよね。
そう思ったとき、1つのアイデアが浮かんだ。




