12話 回想〈エイミー視点〉
「シンもサンディも、置き手紙だけ残して出て行ったんですよ!」
「あら〜。出て行っちゃったのね。どうしてかしら? サンディとも、シンお兄様とも仲良くしたかったのに……」
――シンお兄様も出ていったの?
同じ日に2人がいなくなったってことは、2人が一緒に出て行った可能性がかなり高いわよね?
「……なんかおもしろくないわね〜」
「え? 今何か仰いましたか?」
「ううん、2人で出て行ったのかな〜って思ってたの。もしかしたら、声に出てたかもしれないわ」
すると、またカイお兄様が怒った顔になって話し出した。
「あいつら、2人で出ていったんですか!?」
――えっ……、カイお兄様そんなことも考えついていなかったの?
「同じ日に幼馴染2人が出て行くなんて、一緒に出て行ったとしか思えないでしょ?」
「どうしてあいつらが一緒に……。それにサンディは俺の事を好きだったはずだろ!? それなのに何でシンと? これって実質浮気だろっ……!?」
――何言ってるのこの人。
気持ち悪いし、さっきからうるさいわね。
というか、サンディが自分のことが好きって気付いてたんだ〜。
意外ね!
もうサンディもいなくなった今、カイお兄様と関わる必要ないわ。
これからは、余り関わらないようにしよう。
「まあ、カイお兄様。2人が突然居なくなって混乱する気持ちも分かります。しばらく、お家のことも大変になるでしょうから、農場長さんに相談したら良いのでは?」
「あっああ、そうですね。それでは!」
そう言うと、カイお兄様は去って行った。
――そろそろ今日はお手伝いをやめておうちに帰ろうっと!
こうして、担当の人に声をかけて家まで帰った。
そして、お父様が帰ってきてから、カイお兄様から聞いたサンディとシンお兄様の話をした。
「お父様! サンディとシンお兄様が出ていったんですって!」
そう言うと、お父様は悲しそうな顔をした。
――どうしてそんな悲しそうな顔をするの?
たかが、平民、しかも他人が2人出て行っただけじゃない……。
そう思っていると、お父様がつらつらと話し出した。
「エイミーも知っていたか……。実は、私は今朝サンディに会って、直接出て行くと聞いたよ。優秀な子だったのに、出て行くなんて本当に残念だ。この地では認められず、叶えられない夢があったみたいだ……。だが、シンも出て行っていたとは知らなかった。2人一緒に出て行ったということは、2人で王都で暮らすんだろうな……。2人ともこの領地で生まれ育ったのに、なぜこの地で暮らすという選択をしなかったんだ? いや、出来なかったのだろう。そのような子をこれ以上増やさないために、もっともっと領地民の負担が減り、暮らしやすくなるようにせねばならない、という事だな。それにしても、サンディもシンも本当に残念だよ……」
――あの2人がお父様をこんなに悲しませるなんて、ムカつくわ!
「お父様がそんなに悲しんだら、私も悲しくなってしまいます……!」
「おお、エイミーは本当に優しく可愛い子だな。こんなにも優しい子ならば、この領地経営もきっとうまくいくな!」
――お父様が褒めてくれたわ……!
もっと頑張らなくっちゃ!
「まだまだ勉強したいと思います! 今日は農場で――」
こうして、お父様と話終わり寝る時間となった。
私は自室に戻りベッドに寝転がって、これまでのサンディとの出来事を思い返した。
サンディは物心つく以前から、私が唯一、一緒に遊んでいた子だった。
今考えるとサンディもまだ子どもだったけれど、5歳頃の私はサンディのことを、侍女よりは年下だろうけど、ほとんど大人みたいな存在だと認識していた。
だからこそ、お父様やお母様が侍女にはしないのに、サンディにだけはたまに会った時、褒めたり頭を撫でたりしているのを見て、腹が立った。
――何で私のお父様とお母様にサンディが褒められてるの?
何で頭を撫でられてるの?
サンディは大人でしょ?
それに、お父様とお母様は私のお父様とお母様なのに!
その思いから、サンディが褒められている時や、頭を撫でられている時に、わざとお父様やお母様のところに行って、サンディを退かして、私も頭を撫でてもらっていた。
けれど、サンディは私が頭を撫でられているのを見ても、楽しそうに笑っていた。
良かったですねなんて言葉まで言っている。
――何で私は悔しい思いをしたのに、サンディは笑ってるの!?
それなら、ちょっと嫌がらせしちゃおう。
そんな軽い気持ちで、別の日にサンディが私の分のクッキーを食べたと嘘をついた。
すると、盗んでもないのに、私の言葉1つで、サンディは侍女に怒られて追い出された。
――最っ高!
私のお父様とお母様を取るから、そんなことになるのよ。
けど、ちょっとやり過ぎちゃった……?
そう思っていたところ、お父様とお母様に人生で初めて怒られた。
確かに仕返ししてやろうと思っていたけど、ちょっと大事になりかけているのを、当時は子供ながらに察した。
それに、クッキーを盗られたと言ったものの、自分のクッキーを食べた上に、サンディのクッキーを食べたのは私だったため、少し罪悪感があり、素直に両親に言われた通り謝った。
そして、サンディがいなかったら遊び相手がいなくてつまらないことに気付いたこともあり、少し反省したのを覚えている。
それからは普通に過ごしていたものの、ちょくちょくサンディにイラつくことがあった。
侍女のように偉くもないくせに、侍女みたいに注意する時があったからだ。
それに、未だにたまに会う私のお父様とお母様に可愛がられている様子のサンディに腹が立っていた。
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