前編
勢いで書いたので設定が甘いところがあるかもしれません。
※このヒーローは自分に合わないと感じたら、そっとブラウザを閉じてUターンしてください。
最初はほんの気紛れだった。退屈で代わり映えのない毎日に飽きていた私は、小動物のような一つ歳下の少女に刺激を求めた。学園入学前に庶子から貴族令嬢になったせいか貴族社会に馴染めていないくせに、おどおどとしながらも言いたいことはきちんと言う、その少女の姿に期待した。私に新たな日常をもたらしてくれるのではないか、と。
だからこそ、残念だ。卒業パーティーの最中、愚かなことを仕出かした少女とその取り巻きと化していたかつて側近候補だった高位貴族の令息たちに呆れてものが言えない。
確かに少女は私に刺激的な毎日をくれた。貴族社会の頂点に立つ王族の私に対して馴れ馴れしい口調に物怖じしない姿勢、元平民ということもあってか貴族連中とは異なる視点での鋭い意見、それが新鮮に映ったのは否めない。
もし少女が望めば、学園卒業後に王宮で登用しようと考えていたくらいには期待していた。恐らくこのままいけば少女は男爵の庶子ということだけで良縁に恵まれることはほぼない。男爵には既に後継ぎがいるようだから、良くて隠居している伯爵家あたりの後妻に入るくらいだろうか。しかし、王宮で登用されそこで功績を上げることが出来れば、王家から良縁を紹介することが出来るはずだ。優秀な人材は逃したくないから。それが、私に刺激的な毎日をくれた少女へのお礼だった。
けれども、少女は自ら将来の道を閉ざしてしまった。私の婚約者であるシルビアを悪に仕立て上げるという、過ちを犯したために。後に私と共に国を盛り立ててくれるはずの王妃を、あろうことか私の側近候補者たちに泣きついて私の婚約者にいじめられていると信じ込ませ、あまつさえ私にも助けを求めてきた。
「ウィル様、わたし怖いです……。シ、シルビア様にいつか殺されるんじゃないかって」
「……なぜそう思う」
「今までウィル様に心配かけたくなくて、ずっと黙っていたんだけど……シルビア様ってね、わたしがいつもウィル様の傍にいると睨んでくるの。それに、この前は人気の無い場所に呼ばれてたくさん酷い言葉を言われたの……。それだけならまだ我慢できたんだけど、つい最近……階段から突き落とされそうになって……」
少女は目を潤ませて訴えかけてきた。少女が私に近づいて来たとき念の為ハニートラップを警戒していたことが功を奏し、すぐに少女は噓を吐いついると見抜くことが出来た。しかも私の名を愛称で呼ぶことを許可していないのにも関わらず、女の武器である涙を使った大根演技で嘘の証言によってシルビアを陥れようとしたことは、それまでの少女に対する評価を一瞬で地に堕とすものとなった。それだけではなく、簡単に少女に騙された側近候補者たちの見直しも考えなければならず、重い溜息が自然と零れ落ちた。私の目はどうやら節穴だったらしい。
ウィルビセス・ラインセント。それが小国でありながらも肥沃の大地を有する自然豊かなラインセント王国の第一王子の名であり、私である。そして少女が口にしたシルビアという女性は、私が愛してやまない婚約者の名だ。財務大臣を父に持つザッハトール侯爵家の長女であり、次期王妃として私の治世を支えるに値する聡明な女性である。決してシルビアは人に悪意を向けるような女性ではない。
少女は言う。私に愛されている故にシルビアは少女に嫉妬し攻撃してくると。少女は縋る。シルビアが権力を笠に着て虐めてくるから注意して欲しいと。
聡明なシルビアはそんなことをするはずもないし、次代の王妃を守るためにシルビアには内密で付けられている"影"からの報告で冤罪は既に証明されている。だから、少女の話を鵜呑みにすることなく有り得ないと一笑に付して終わった。つまり、私の中では少女の話は既に終わったことだったのだ。